乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その四百八
そういえば、近くに雷が落ちてきて巨大な絵画が倒れてくる前、凜香さんが何か光るものを見つけたと言ってたけど、それがこれか。
「無意識に拾ってたみたいで、昨日ぽろっと出てきたんですの」
「そうだったんですね……」
「それを拾ったすぐ後に大変なことが起きましたので、少し心配になって聞いてみたんですの」
たしかに、これがあそこに落ちていなければ凜香さんはあの場所で巨大な絵画の下敷きになりそうになることもなかったとも言える。
ただ、想いの欠片と凜香さんの危機の関係を知っている優花としては、あの事故は優花が深雪の想いの欠片を入手した時点で回避不可のものなので、この欠片のせいとは思ってはいない。
まあマジハイのことを知らない凜香さんは、この欠片とあの事故を関連付けてしまうのも仕方ないし、心配になってしまうのもしょうがないかもしれない。
「……」
近くの皿を出して凜香さんに真紅の欠片を置かせたリリーシャさんが、まじまじと真紅の欠片を見る。
「見たことがない色だね……まるで血みたいじゃないか……」
言われてみれば、たしかに血が固まったみたいに赤い。血の結晶、血の宝石の欠片と言われれば納得できるくらいには。
血みたいだと認識して俺も何となく欠片を見ていると、気のせいか段々と気分が悪くなってきた。
「……お嬢ちゃん、あんたの心配は当たってるよ。この欠片からは良くないものを感じる。さっさと捨てた方がいいね」
「わ、わかりましたわ!」
結局、あの欠片はリリーシャさんが処分してくれることになり、後を任せてお店を出る。
「やっぱりあの欠片のせいだったんですわね!」
「そう……なんですかね?」
たしかに見てたら気分が悪くなったけど、あの事故の本当の原因は別にあるんだけど……まあ、ここで凜香さんにそれを説明するわけにもいかないし、あの欠片のせいってことにしておいてもいいか。
「帰りましょうか」
「ええ、帰りましょうゆうかさん。そうだ、帰ったらわたくしと一戦チェスをしませんこと?」
「あはは、いいですよ」
チェスは凜香さんが最近のハマっているもの。ここ数日時間があればチェスで対戦したいと言い出すので何度か勝負をしている。
凜香さんもチェスは最近始めたばかりらしく、お互いに初心者。とはいえ凜香さんはさすがで、すぐに上達してしまい今ではハンデをつけないと勝負にならないくらいになっている。
「それにしても、凜香さん。なんで急にチェスを始めたんですか? 何かきっかけでもあったんですか?」
「きっかけですの? それはあなたとあそ……げふんげふん。た、たまたま物置にあったのですわ!」
「え? あれ新品で買ってませんでした」
「あーえー……ですから! 物置にチェスを見つけたので、チェスをやってみたくなったんですの。それで新しくチェスの駒と盤を買ったのですわ! ええ、何もおかしくないでしょう?」
物置にあったのなら、それで遊べばいいのでは……。
喉元まで出かかった言葉を飲み込んで苦笑する。
「ははは……」
凜香さんはお嬢様だから、新品の自分のものが欲しくなったってことなんだろう。俺のような庶民の感覚で凜香さんを測ってはいけない。
「何なんですの! その笑いは!」
「いや、凜香さんが凜香さんだなあって」
「何ですのそれは、悪口ですの!」
ぷりぷりと怒る凜香さんをなだめるのに苦労しながら、凜香さんのお屋敷へと帰ると、一度与えられた部屋へ。
「で、どうしよう……これ」
入って早々、開けるのは自宅から持ってきたいつも使っている自分のバッグ。
中にはちゃんと、いつか渡そうとずっと入れっぱなしにしたままだった凜香さんへ渡すためのパワーストーンのペンダントが入っていた。




