乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その四百七
「会社が忙しくなる時期はあるものですわ。それよりも、ゆうかさんお茶にしましょう。わたくしこういったお菓子を食べるのは初めてですの」
「まあそうですよね」
今日、買い物のついでに買ったお菓子というのは駄菓子。適当に何種類か買ったけど、凜香さんはどれも食べたことがないらしい。
「夕飯前ですけど大丈夫ですか?」
「ふふん、これくらいなら問題ありませんわ! どれから食べようかしら?」
楽しそうにお菓子を選ぶ凜香さんが今までにないくらい子供に見えて、とても可愛らしかった。
*****
「……というわけなんですよ」
「いや、何がというわけだい。幸せ自慢かいゆう坊」
「いえ、幸せ自慢ってわけじゃないんですけど……リリーシャさん、なんか店の雰囲気変わりました?」
週末、結局本当に凜香さんの家で執事をしつつ、買い物に行きたいという凜香さんの要望で外出中。近くのお店に寄ったので、ちょうど良いとリリーシャさんの様子を見に凜香さんと一緒に来店したところ。
「ふぇっふぇっふぇ、子供達がもっと明るい方が良いというもんでね」
「なるほど、たしかに前はもう少し暗かった気がします」
それを言ったのはきっと文化祭で淀のクラスの占いの館に占いを教えた際に、知り合った淀のクラスメイト達だろう。
言われてみれば店内が前よりも少し明るいし、よく見たら占いの館で使ってた飾りつけも少しされていた。
以前はどこか寂しさを感じていたけど、リリーシャさん自身も前より明るく笑うようになっているし、本当に良かった。
「ふぇっ、ふぇっ。余計なお世話だよゆう坊。でもありがとうね」
「ははっ、そういえば心が読めるんでしたね」
「ふぇっ、ふぇっ。当然さ、あたしは魔女だからね」
楽しそうに笑うリリーシャさんを見て、もう大丈夫そうだと安心する。
「あ、あのですわね!」
二人で笑い合っていると、今まで黙って話を聞くばかりだった凜香さんが小さく手を挙げた。
「どうしたんだい? お嬢ちゃん? 何か聞きたいことがありそうだね」
「……よくわかりましたわね?」
「ふぇっ、ふぇっ。そんな顔してたら誰だってわかるさ。それよりも、聞きたいことって何だい?」
凜香さんがリリーシャさんに聞きたいこと……何だろう?
そもそも凜香さんが人に何か聞くこと自体割と珍しいし、特に何も思いつかない。
「ゆうかさんが以前こちらでプレゼント……パワーストーンのペンダントを買ったと聞いたのですけれど」
「あ……」
やばい!!!!
文化祭のおかげでもう凜香さんと仲直りできてしまったので忘れてたけど、まだ凜香さんにお詫びとして買ったピンクのパワーストーンのペンダントを渡してないことを思い出す。
常に使っているカバンには入っているので、今は凜香さんの家か。
「ゆう坊、あんたまだ……バカだね、女は根に持つと言ったじゃないか」
凜香さんの口からパワーストーンと出たことで、まだ凜香さんに渡してなかった事実を思い出し滝のような汗が出てきた優花を見て、察したリリーシャさんが呆れたような目になっていた。
「まあいいさ、それで? それがどうしたんだい?」
「ええ、それでこちらを見てもらいたいんですの」
凜香さんからしたらよくわからない話だったからなのか、スルーしてくれたのでとりあえず助かる。
あとで絶対渡さないと……。
「これは……」
凜香さんが取り出したのは真紅の色をした欠片。
以前優花がテスト勉強のお礼にと、勉強を教える側だったメンバーに渡したパワーストーンが割れたらちょうどこんな感じになりそうだけど、こんな色のものは無かったので、きっと無関係だろう。
「……どこでこれを?」
真紅の欠片を見たリリーシャさんの目が厳しくなる。
「文化祭の帰り道に落ちてたんですの」
「あっ、あの時の……」




