乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その四百六
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あまりにも色々ありすぎた文化祭、そしてその片付けも終わり。ようやく今まで通りの平凡な日常が戻って……は来なかった。
「ゆうかさん。行きますわよ!」
「あっ、はい! ちょっと待ってください!」
変わったことのまず一つ目は、凜香さんの変化。
男女混合ミスコンでグランプリを取れたことで、凜香さんに心境の変化があったのかもしれない。
少しでも時間があると凜香さんが話しかけてくれるようになったし、放課後も自宅に来るように誘ってくれるようになった。
休み時間の度に話しかけてくれるなんて今までなかったこと。
そして、めいさんを休ませたいという理由から、休日はまた執事をするように言われていて、実質毎日凜香さんと居るような日々になりそうだ。
そして変わったことの二つ目は、クラスメイト……いや、白桜学院の全校生徒が俺を見る目が変わったこと。
「ねえ、あの子だよね。お姉さまって」
「いや、本当に? 全然そうは見えないけど……」
「アイスクイーンと一緒に居るから間違いないだろ……」
特に凜香さんと一緒に居るとよく見られるようになったのは、間違いなく男女混合ミスコンの影響だろう。
男女混合ミスコンでめいさんに扮してメイドの女装をして、お姉さまなんて呼ばれていたのが俺だということに、みんな気が付いたらしい。覚悟はしていたけど、ため息をつきたくなる。
「はあ……」
「ゆうかさん。ため息をつくと幸せが逃げますわよ!」
……最近凜香さんは何故か妙に元気で、いつも楽しそうにしているというのも変化の一つに数えても良いかもしれない。
「ははっ、そうですね……はあっ……」
結局またため息をついてしまいながら、凜香さんと放課後一緒に帰り、めいさんに頼まれた物を買いに商店街に寄ると、
「お、白桜のミスコンクイーンが来てくれたぞ!」
「おお! じゃあその隣のがあの綺麗なメイドさんかい!」
「安くしとくよ! 寄ってってくれ!」
何で商店街にまでバレてるんだろう……。
あの姿が俺の女装だったことはせいぜい学校だけで終わる話だと思っていたのに、何故かみんなが知っていてビビる。
「あはは、ありがとうございます。あ、じゃあそれください」
……まあ、安くしてくれるというのなら、ありがたくここで買っておこう。
「ふふん、人気が出るのも悪くはありませんわね!」
今までだってひそかに学校の女子を中心としたファンクラブみたいなものはあったようだし、人気はあったはずだけど、さすがにこんな誰も彼もから好意的な反応をもらう経験はなかったんだろう。
声をかけられる度に、凜香さんは満足そうに笑みを返していた。
「お嬢様、ゆうか君。おかえりなさい」
「どうも、めいさん。これ買ってきましたよ」
頼まれた物と、頼まれてはないお菓子とかを少しだけ買って凜香さんの家へ行くと、ちょうどめいさんが屋敷から出てくるところだった。
「ありがとう。ゆうか君。それは厨房に置いておいてください。それからお嬢様、今から少し出てきますので」
「ええ、わかりましたわ」
「というわけです。ゆうか君、お嬢様をお願いします。遅くならない内には戻りますので」
「あっ、はい。大丈夫です」
何だか今まで見たことがないくらい余裕がない。こんなに急いでいるめいさんはとても珍しい。
いつだって余裕があって優雅な人だと思ってたけど、めいさんですら余裕がなくなることがあるとは。一体何があったんだろう。
「お母様達の会社が今忙しいみたいですわ」
「そうなんですね。……めいさんも手伝わないといけないくらいだと相当ですね」
買い物も俺達に頼むくらいには、めいさんも会社の手伝いが忙しいらしい。
「そうかもしれませんわね」
凜香さんも詳しい状況は知らないみたいだった。まあ凜香さんのご両親の愛香さんと涙さん、それにめいさんがいれば何が起きても大丈夫だろうけど……少し心配だ。




