乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その四百五
既に帰宅してた花恋に出迎えられ、トロフィーを家の中へ。
「おおーすごい! これが……! いいね凜香お姉ちゃん!」
「ふふん、そうでしょう、そうでしょう!」
この巨大なトロフィー、家のどこに置くのかと思ったら……まさかの優花の部屋だった。
元々そんなに広くない部屋で放たれる圧倒的存在感。部屋の半分くらいこのトロフィーに支配されてる感じがする。
「……凜香さん、さすがにここだと壊しそうです」
まあ正直このトロフィーを見るたびに凜香さんのことを考えられそうだし、自室に置きたい気持ちはあるけど、さすがにいつか倒して壊しそうで怖すぎる。そして壊したら一生凹むトラウマ案件になるので嫌だ。
「もう、しょうがありませんわねえ……」
というわけで、トロフィーはリビングの隅に移動。このトロフィーが入るぐらいのガラスケースも既に購入済みらしく、それもいずれ届くだろう。
「はあ、さすがに疲れた……」
トロフィーを置いたら満足したようで、凜香さんとめいさんも帰って、ようやく一息つけるように。
文化祭のこの二日はあまりにも色々あり過ぎた。
凜香さんがまだ救われてないっていう新しい問題を考えなきゃいけないけど、さすがにもう限界。
「おやすみ……」
ばたっとベッドに倒れた優花はそのまま泥のように眠った。
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「ふふっ、あはは……!」
一人ベッドに転がりスマホをいじりながら、ふと今日のことを思い出して笑う。
今日は本当に楽しかった。
特に過去最高の来場者数を記録した今回の文化祭の目玉である白桜学院男女混合ミスコン。グランプリが虚空院凜香になるのは正直想定外だったけど、結果的には良かったと言える。
このクソなゲーム世界に主人公がようやく居なくなったとわかったんだから。
「うーん……これからどうしよっかな……」
スマホをベッドのすぐ横に置いた小机に乗せて、ぼんやりと天井を見上げる。
事態は思った通りに進んではいるし、目的は達成されつつある。それは確実だけど、完全に達成するにはやっぱりまだ足りない。
「やっぱり、刺激するしかないかな……」
ちらっと、机の方を見る。そこに飾られているのは一枚の写真。
写真に写っているのは男子。本当にたまたま通りがかった時に珍しく中庭で一人で食事をしていたのをこっそり撮ったその写真は中々によく撮れている。
普段の彼が見せてくれないそのぼんやりとした表情は、いつもの彼とは別人に見えてとても気に入っている。
まるで一人の時こそ本当の自分に戻れているようで。
いつも虚空院凜香のため、そして友人達のために忙しそうにしている彼も好きだけど、本当の彼は違うということは私だけがわかっている。
「お願いしますね、先輩」
目的達成のために彼にはもっと動いてもらわないといけない。そのためには何だってする覚悟があるし、何だって使わないと。
「ふふっ、んふふふ!」
これから自分がしないといけないこと、そしてこれから何が起きるのかを想像して、期待感に笑いが止まらない。
こんなに楽しい気持ちになれるのは全部彼のおかげだ。本当にありがとう。
彼の存在自体がこの世界にとってイレギュラー。彼の行動によってこの世界には負荷がかかっていて、今日みたいに本来絶対勝てるはずの主人公が勝てないという結果が生まれる。
彼のおかげでどんどんこの世界は壊れてる――――でもまだ足りない。
こんなクソなゲーム世界なんか一秒でも早く壊れてしまえばいいんだ。
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