乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その四百三
「うあっ! いきなり雷!?」
雲はたしかにあるけど、雨なんて降ってないのにいきなり落ちた雷。
落ちたのは近くの避雷針だけど、それでもすぐそこに落ちたせいで衝撃がすごい。
「凜香さん!! あぶない!」
しゃがもうとしていたところに落ちた雷で凜香さんは地面に転んでしまっている状態、そこにさっきの雷の衝撃で固定具が緩んだのか、壊れたのか白い桜を描いた巨大な絵画が倒れてきそうになっていた。
おかしい、絶対におかしい!
不自然に落ちたこのいきなりの雷、この感覚は……間違いない、今までと同じ凜香さんの危機。
マジハイの深雪を攻略した結果、凜香さんに訪れる不幸、落下物による事故ってことなんだろう。
「えっ……」
何が起きているのか、真下に居る凜香さんはわかってない。このままだと凜香さんは倒れてくる巨大な絵画の下敷きになってしまう。
ふざけるな!
凜香さんは絶対に助ける。
使命感と覚悟に突き動かされ優花は駆ける。
どうする! 凜香さんの元へは行けるけど、そこから凜香さんを逃がす時間はないぞ!
凜香さんだけ横に突き飛ばす? いや、座ってる凜香さんを突き飛ばしたところであの大きすぎる絵画の範囲外に逃がせはしない。だったらいっそ受け止めるのは?
高速で思考しながら、どうすれば凜香さんを助けられるのかを必死に考える。
「凜香さん!」
凜香さんの元にたどり着けたと同時、もう数秒で倒れてくる絵画に逃げるのは不可能と察し凜香さんを庇おうとして――――一つ思いついた。
いや、まだだ!
「きゃっ!」
倒れたままの凜香さんを胸に抱きかかえ、そのままごろごろと転がることで倒れてくる絵画、その一番下の部分へ。
ドォン! バキッバキ!
倒れた絵画が地面にぶつかり、絵画自体はもちろん周囲のいろんなものが壊れたし、結局下敷きにされたのは変わらないけど、巨大な絵画の一番下の部分まで到達していたおかげで倒れてきた時の衝撃も少なかったし、そこから脱出するのも簡単だった。
「いてて……」
結果、怪我はごろごろと転がった時に少し擦りむいたぐらいで済んだ。
「凜香さん、凜香さん!」
「えっ……あっ……はい」
ぽんぽんと頬を叩いて心ここにあらずみたいな感じだった凜香さんを正気に戻す。
「どこか痛いところは? 怪我とかしてませんか?」
「えっ……ええ、大丈夫ですわ」
「そうですか、良かった」
とりあえず凜香さんは無事、今回も守ることに成功した……それは良い。それは良いけど……。
男女混合ミスコンで凜香さんがグランプリを取ったこと、いや、取れたことでもう凜香さんに危険が迫ることはなくなる――――なんて都合の良い思い込みだったのがハッキリした。
凜香さんを守るという使命は果たせていない、まだ何も終わってはいなかった。
『今雷落ちなかった?』
『おい、見ろよあのでかい絵倒れてるぞ!』
『うわ、色々壊れちゃってるじゃん。めっちゃすごい事故じゃん』
何が起きたのかがはっきりしたせいか、にわかに周囲が騒がしくなってきた。
「凜香さん、立てますか?」
「ええ」
凜香さんの手を取り立たせる。本当に怪我が無いか改めて確認しても、凜香さんには傷一つなし。
「む、灰島、大丈夫か?」
「あっ、深雪先輩」
騒ぎを聞きつけて深雪が駆けつけてきてくれた。幸い優花達の他に今の一件でケガした人は居なかったようだし、後のことは任せてしまっても大丈夫だろう。
めいさんに迎えに来てもらって、車で家に送ってもらう。
「ほら、そっちの手も出してくださる?」
「あっ、はい」
本当に軽く擦りむいたぐらいだけど、車にあった救急セットから消毒液と絆創膏を取り出して凜香さんが処置してくれた。
「それにしてもいきなり雷ですか……」
「ええ、本当にびっくりしましたわ。もう少しであの絵の下敷きになるところでしたわ」
「危なかったですね。ゆうか君、お嬢様を守ってくれてありがとうございました」
「いや……」
あの時、まだ凜香さんに危険が迫る可能性があるとちゃんと警戒していたのなら、あの絵が倒れてきた時だってもう少し何とかなったかもしれない。
今回凜香さんが無事だったのは偶然に過ぎない。本当に危なかった。




