乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その四百二
不満があったと言われるのはわかるけど、それよりも今言われた『ずっとあなたのことを考えてた』という凜香さんが言った強烈なワードにガツンと殴られた気分。
「あなたにとってわたくしって何なんだろうとか、どうしてわたくしのことを避けるんだろうって、でもその答えがさっきわかりましたの」
「答えですか?」
「ええ、わたくしはあなたの……」
凜香さんがそこまで言いかけたとき、
『はい、ダンスタイム終了でーす! 幸せなカップル達はすみやかに散ってくださーい!』
曲が終わってすぐに後夜祭の会場に爆笑が起きた。
「ははっ、また邪魔されちゃいましたね」
せっかくの空気がぶち壊し、もう笑うしかない。
「ふふっ、そうですわね」
ダンスも終わりなのでホールドを解こうとしたところ、凜香さんがまだ握られていた手をぎゅっと握ってきた。
「わたくしはあなたの『大切』だとよくわかりました。だからこれまでのことは……全部許してあげます」
今日一番、いや、今までで一番、凜香さんが本当に楽しそうに笑う。
「……は、はい」
至近距離からその強烈な笑顔パンチを食らい、一瞬このまま昇天するかと思った……危なかった……。
邪魔が入ってしまってもどうしても言いたかったように、凜香さんがちゃんと言ってくれたことがとても嬉しかった。
*****
『はい。これで後夜祭も終了でーす! みなさん気を付けて帰ってください!』
楽しかった文化祭も後夜祭ももう終わり、片付けは明日なので、今日はもう帰るだけ。
「めいさんは先に帰ってるんですか?」
「後夜祭の間は近くで時間を潰してるはずですわ。車で送ってもらいましょう」
そろそろかなり暗くなってきたので、安全のためという名目で二人共手を繋いだまま、一度荷物を取りに教室へと戻る。
「凜香さんは、文化祭楽しかったですか?」
「ええ、ミスコンもお化け屋敷も楽しめましたし、後夜祭であなたと踊ったことも忘れませんわ。こんなに楽しかった文化祭は初めてですわ」
「はは、それは良かったです」
凜香さんが楽しんでくれたのなら、これまでの苦労が報われるというもの。
「あら? あれって……」
教室に戻る途中、凜香さんが見つけたのは高さが校舎の三階部分ぐらいまである巨大な絵画。
「ん? ああ、これが……」
たぶん深雪先輩達が運んでたっていう大きな物っていうのはこれのことだったんだろう。
「……伝説の白い桜ですかね?」
「そのようですわね」
描かれているのは、白桜学院に伝わる願いを叶えてくれる伝説の白い桜。木の板に直接描かれた板絵ってやつだろう。美術部が製作したみたいだけど中々の大作だ。
凜香さんが男女混合ミスコンのグランプリになったことで、この世界は真央が主人公のゲーム世界じゃなくなっているのがわかっている。
この世界をゲームたらしめていた世界の強制力、ルールもなくなったということは、きっとこの願いを叶えてくれる伝説の白い桜ももう姿を現すことはことはなくなってしまったことだろう。
この白い桜はあくまで絵画、本当に願いが叶うことも無いんだろうけど……それでもこれから凜香さんが事故なく幸せに暮らせるようにと願わずにはいられない。
「……行きましょうか?」
「ええ……あら? あそこ何か光るものが落ちてますわ?」
「え? あ、本当だ」
巨大な絵画の真下ぐらい、何かが光を反射してぴかっと光ったのが見えた。
「気になりますしわたくし確認してきますわ」
「え、凜香さん?」
繋いでた手を離し、凜香さんがぱたぱたと走って行ってしまう。
一度気になったら止まっていられないのはやっぱり凜香さんらしい。
「あら、これは……」
凜香さんが光っていた物の所に到着ししゃがんでそれを拾おうとする。
「何でしたそれ?」
光ってたのは何だったのか、俺も行こうとしたところで……。
ドオン!
突然のまぶしすぎる一瞬の光と爆発音と衝撃によろめいた。




