乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その四百
この世界の元となった乙女ゲーのマジハイには凜香ルートはない。当然凜香の告白シーンもなかったので気が付けなかったけど……もしかしたら今、凜香さんから告白されそうになってるんじゃないか?
そう気づいた瞬間、優花の心臓が一気に高鳴り、顔が異常に熱くなってきた。
こ、告白される側って、どうすればいいんだ?
生まれてこの方十数年、告白なんてされたことないので、どうすればいいかわからずどうしてもそわそわしてしまう。
そ、そうだ、マジハイだとどうしてたっけ……。
唯一の参考資料マジハイを思い出してみるも、告白シーンで選択肢こそでるものの、主人公がどうしてたかなんて描かれてるはずもない。
ま、まあとにかく待とう。待っていればいいはずだ……たぶん。
逆にこっちから告白するという考えも一瞬よぎったけど、それを実行に移す度胸はない。そもそもこれが本当に告白かどうかすらわからない。勘違いだったら恥ずかし過ぎる。
結局無難に凜香さん言い出してくれるのを待つことにすると、
「……あ、あのですわね!」
しばらくちらっとこっちを見ては何かを言おうとしてやめてを繰り返していた凜香さんが、いよいよ意を決した様子でこっちを振り返った瞬間、
「お、同士達こんなところにいたのか」
「兄貴、お疲れさんっす!」
……。
「どうしたお前達、どうしてこんな隅にいる」
「あはは、探したよ二人共」
「こんなところで何してたんですか先輩達~?」
翡翠に竜二だけじゃなく深雪に真央、楓までみんなで優花達を探しに来てくれたらしい……。
いや、タイミング……。
最悪のタイミングでみんなが現れたせいで、凜香さんは顔を赤くしたまま口をぱくぱくさせたかと思うと、すぐにぷいっとそっぽを向いてしまった。もう今から告白なんて空気でもなくなったので、ここから告白されるなんてことは期待できないだろう。
……まあ、本当に今凜香さんが告白しようとしたのかどうかはわからない。というか、凜香さんのことなので何かもっと別のことを言おうとしてたのかもしれないけど。
「……いや、改めて凜香さんにおめでとうって言ってただけ、それよりもみんなこそ何で探してたんだ?」
きっとチャンスはまた来るだろう……たぶん……。
「ふっ、決まってるだろ同士」
「そうっすよ兄貴、あれっすよあれ」
……あれってなんだ?
何か優花以外の全員がわかっている雰囲気を出している。
「……何ですの? ゆうかさん、わかってなかったんですの? わかってて二人っきりになったものと思ってましたけど?」
「凜香さんまで……いったい何が……?」
わかっていないのは本当に優花だけらしい。本当にあれって何なんだろうと思っていると、
『それでは……ここからはダンスタイム! みんな曲に合わせて踊れー!』
スピーカーから聞こえてくる音は最近流行のダンスナンバー。曲を流すからあとは勝手に踊れってことらしい。
「なんだ、あれってこのダンスタイムのことか……」
いや、待てよ!?
後夜祭のプログラムを把握してなかったのでわからなかったけど、元々優花がこうして凜香さんの隣を確保していたのは、凜香さんと踊るため。慌てて凜香さんにダンスを申し込もうと振り返ったけど、
「ってことで踊ろうぜ同士!」
「兄貴、あれ踊りましょゾンビダンス」
「ふっ、ならば自分とはロボットダンスでも踊るか?」
「あはは、私は普通に踊りたいかな」
「楓は灰島先輩と踊るなんてごめんですけどね、まあどうしてもと言うのなら踊ってあげます」
みんなに確保されそのままずるずると連れていかれる。
「ちょ、ちょっと待って! り、凜香さーーーん!」
「……もう、ゆうかさん。あなたって本当に人気者ですわね」
連れていかれる優花を見て、凜香さんが可笑しそうにくすくすと笑っていた。




