乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その三百九十九
釣り合ってないという言葉が聞こえて思わずぴくっと反応してしまうと、凜香さんがすぐに声がした方を睨んだ。
「ちょっと!」
「あー大丈夫ですから、ちょっと移動しましょ」
まあすぐ隣の優花に聞こえてたんだから、凜香さんに聞こえないはずもなく、ばっちり聞いていたらしい。
さっきの言葉が聞こえて凜香さんが怒ってくれたのは嬉しいけど、ここで騒ぎを起こしたくないので、凜香さんの手を取り少し場所を移動する。
「なんなんですのあの方達! まったく! あの方達がゆうかさんの何を知ってるっていうんですのよ! 何が釣り合ってないですか!」
「いや、それだけ凜香さんの評価が高いってことなんだと思いますよ」
そう、このあまりにも可愛い凜香さんに釣り合う存在なんてこの世界のどこを探したって居るはずもない……つまり、誰が隣に立っても釣り合ってないんだから、気にする必要はない。
さっきぴくっと反応してしまったのは「釣り合ってない」という言葉を聞いてすぐに思考がこの答えを出したからであって、別にあの言葉にショックを受けたわけじゃない。
「ふ、ふん! ゆうかさんに免じて許してあげますわ!」
ぎゅっとこちらの手を強く握ってきて、今度は凜香さんが引っ張り始めた。
「どこ行くんですか?」
「野外ステージの近くにいれば良いのでしょう? もう少し静かなところに行きましょう」
そう言われて連れてこられた場所は、野外ステージの近くかどうかギリギリのライン、すぐそこが林になっている隅っこ中の隅っこ。
握った手を離し、そのまま数歩先に行った凜香さんだけど、何故かそのままで振り向いてくれない。
『それでは次は、軽音部の演奏で……』
一応ちゃんと音は聞こえてくるので、後夜祭で今何してるかわからないってことはなさそうだけど、近くを通る人すら居なくて、ほぼ二人っきりみたいな状況に。
「あの凜香さん、改めておめでとうございます。凜香さんにグランプリになって欲しいと思ってたので、本当に嬉しいです」
何で振り向いてくれないのかはわからないけど、とりあえず何度だって凜香さんがグランプリを取って嬉しいと伝えようとすると、
「も、もう、それは良いんですわ。それよりも……二人っきり……ですわね?」
「え? ああ、そうですね?」
たしかに二人っきりだけど、今日ほとんど一緒には居たわけだし、二人っきりでも別に何も……と思った時、気が付く。
……凜香さんがなんかもじもじしてる?
基本的に言いたいことはすぐに言う凜香さんがあまり見せない珍しい姿に、何を言われるのかわからず少し緊張してきた。
「えーっと、ですから、あの……」
何だ……? 何を言われるんだ?
これは相当大事なことを言おうとしていると感じ、思わず身構える。
いつも通り怒られるとか? いや、でも怒られるようなことはしてない……はず? 他に何か言われそうなことは……。
昨日と今日、文化祭の記憶を振り返ってみても、特に言われそうなことに心当たりがない。様子を見るに相当言い出しづらいことは確定だろうし、これは何が来てもいいように心の防御態勢を取った方が良いのか? と思った瞬間。
「その、ですわね……」
ちらっとだけ振り向いた凜香さんの顔が、真っ赤になっていることに気が付いた。
……この雰囲気、シチュエーション……もしかして……告白?




