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乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい   その三十九

 凛香と同じ傘に入り隣を歩きながら、優花は真央の攻略イベントを邪魔しても良いものかどうか悩んでいた。


 真央が攻略キャラの誰かを攻略してしまうと、凛香的にはバッドエンドになるという点は変わらないが、優花が願いを叶える白桜を使って自分の願いを叶えようと思ったら、真央に全キャラを攻略してもらう必要があるだろうからだ。


 真央の攻略を妨害するべきか、それとも応援するべきなのか。


 真央と竜二の背中を見ながら考えていると、凛香がぐいぐい腕を引っ張ってきた。


「ゆうかさん! 遅いですわ! 二人共行ってしまいますわよ!」


 たしかに凛香の言う通り、真央達との距離は少し離れていて、おまけに優花達は信号につかまってしまった。ただ、攻略データを覚えている優花にしてみれば二人のこの後の行動は手に取るようにわかるので、問題はない。


「あー……まあ、行き先はわかるんで大丈夫ですよ」


 凛香を安心させるようにそう言うと、凛香は小首を傾げていた。


「えっ? なんでわかるんですの?」


 さすがに、ゲームのイベントと同じだからなんて言うわけにもいかないので、どう誤魔化そうか迷っていると、ちょうど良く信号が変わった。


「あっ、信号が変わりましたよ! ほら! 行きましょう!」

「え、ええ」


 凛香の手を取って横断歩道を渡ると、凛香はそれ以上追及する気はなくなったらしく、優花を見ていた目を前に向けていた。


 どうやら上手く誤魔化せたらしい。


 内心ほっとしながら優花も前を向くと、真央達は既に見えなくなっていた。


「それで? お二人はどちらに行ったのかしら?」

「えーっと……ちょっと待ってくださいね」


 たしかこの後は……。


 竜二との相合傘イベントの場合、主人公は帰っている途中でコンビニで傘を買うかどうかの選択肢が出てくる。普通に傘を買わずにそのまま竜二と帰ると、新たなCGは無しで簡単な会話の後竜二との親密度が上がって終わり。


 そして、主人公が自分の分の傘を買うと、そこから二人は公園で雨に濡れる捨て猫に出会い、竜二が自分の傘を猫にあげてしまうCGが手に入り、そこからは主人公の傘で一緒に帰り親密度が大幅アップという流れになったはずだ。


 傘を買おうと買うまいと二人はコンビニ前を通るはずなので、コンビニのある道を通れば良いはずだ。


「とりあえず近くのコンビニに行くはずなので、そこまで急ぎましょう」

「ええ! わかりましたわ!」


 優花達がコンビニに行くと、そこには傘を買う真央と隣に立つ竜二の他に楓もいた。


 楓も優花達同様二人から隠れているらしく、雑誌で顔を隠しながらちらちらと真央達の方を見ている。


 金髪のツインテールが目立つので正直ばればれなのだが、真央は気が付かなかったらしく、新しく買ったビニール傘を持ってそのままコンビニを出てきていた。


「傘を買ったなら、この後は公園か」

「……だからなんでわかるんですの?」


 凛香の疑問には答えず、また尾行を開始すると、雨が少し強くなってきた。凛香が濡れないように傘を凛香の方に寄せると、優花の肩が出て濡れてしまった。

 凛香を濡らすよりはましなので、そのまま尾行を続けると、コンビニを出てきた楓が優花達の前に立ちふさがった。


「ストーカーなんて感心しませんよ、先輩方」


 にやにやとした笑みを浮かべる楓に、楓は初めから優花を妨害するつもりでコンビニに居たのだと気が付いた。


「いやいや、たまたま帰る方向が一緒なだけだから」

「ええ、そうですわ! 決してお二人の仲を疑ってこうして後をつけているわけではありませんの」


 ふふんと胸を張る凛香に、楓はしらーとした目を向けた。


「虚空院先輩って……意外とポンコツなんですね……」

「だ、誰がポンコツですか! 一年生の癖に生意気ですわ!」

「はあ! アイスクイーンだか、アイスクリームだか知りませんけど、楓を舐めてると痛い目にあいますよ!」


 金髪という共通点はあるものの、二人共あまり相性は良くなかったらしい。ぎゃーぎゃーとやかましく言い争いを続ける二人に優花はため息をついた。


「二人共、真央達行っちゃうけど良いの?」

「そうでしたわ! こんなことをしてる場合ではありませんわ! ゆうかさん行きますわよ!」

「あっ! ちょっと! なに楓を無視してストーキングを続行してるんですか!」


 二人の言い争いは終わったものの、結局楓は優花達を逃がすつもりはないらしく、しっかりと後ろについてきた。


「真央先輩の邪魔をしようったってそうは行かないんですよ! 先輩達が邪魔しそうになったら楓が力尽くで止めますからね!」

「とりあえず邪魔をする気はないから安心してくれ」

「灰島先輩の言うことは信用できませんねえ!」


 楓はまだ優花をしっかり敵視しているらしく、警戒状態のままだった。


 とりあえず今は害が無いので放っておくことにする。


「それで? この後はお二人はどこに行くんですの?」

「……この後は近くの公園ですね」


 楓のいる状況であまり攻略情報を出したくなかったが、答えないわけにもいかないので、仕方なく凛香の質問に答えると、すかさず楓が後ろで騒ぎ始めた。


「ほら! やっぱり邪魔する気じゃないですか! させませんよ!」


 傘を持っていない優花の腕を掴むと楓はぐいぐいと進行方向とは逆に引っ張り始めた。


「ふっふっふっ! これで灰島先輩は歩けないはずです!」


 うーん……まあたしかに歩きづらいけど……。


 楓自身の力が弱すぎて正直大して引っ張られている感じはしなかった。試しに腕を引いてみると、楓はあっさりと優花の力に負けて危うく優花にぶつかりそうになっていた。


「な、何をするんですか!」


 もう面倒臭いので、楓の抗議には取り合わず、そのまま楓を引きずるようにして連れていくことにする。


 真央達を視界におさめたまま歩くこと数分。ついに真央達が公園に入っていくのが見えた。


「あっ! 真央さん達が行ってしまいますわ!」

「大丈夫ですって! 凛香さん、濡れちゃいますよ!」


 慌てて駆けだそうとする凛香を押しとどめ、真央達に気づかれないようにこっそりと優花達が公園に入る。


 今頃雨に濡れた猫を見つけている頃だろうなと思いつつ、真央達の方を確認してみると、優花が想像していた光景はそこにはなかった。


 公園の中央付近で、真央がきょろきょろと公園の中を見回し、竜二はそれを隣で不思議そうに見ているだけ。濡れた猫の姿なんてどこにもなかった。


「あ、あれ? なんで?」


 この状況に驚いているのは優花だけじゃなかった。

 楓も本来いるはずの猫がいない状況に困惑し、はっと何かに気が付いたような表情になった後、優花を睨み始めた。


「楓よりも先に手を打っていたということですね、灰島先輩! 何も知らないなんて言っておきながら!」

「いや、知らないけど……」

「ふん! そっちがその気なら楓だってこれからどんどん灰島先輩を妨害しますから! 覚えておいてください!」


 一人で勝手に怒りだした楓はなんだか勘違いをしたまま、優花達の前から去っていってしまった。


「結局、あの子はなんでしたの?」


 凛香がそんな感想になってしまうのも無理がないかもしれない。


「さあ……」


 とりあえずこの状況が楓が何かをしたからというわけではなさそうなのはわかった。

 猫がいないなら後はもう帰るだけかなと思っていると、凛香が急に腕を絡めてきた。


「邪魔者もいなくなりましたし、わたくし達も合流しますわよ!」

「え? なんでですか?」


 優花としては竜二の攻略イベントが起きなかった以上二人を追う理由はなかったのだが、凛香はそうではないみたいだった。


「あの二人をそのままにしておいたら、な、何かするかもしれないでしょう!」

「何かって何ですか?」


 凛香が一体何を心配しているのかわからず素直に尋ねると、凛香の顔が朱に染まった。


「で、ですから! その…………キッ、キッスとか」


 キッスって……言い方がなんか可愛いな……。


 どうやら今は相合傘を真央としている竜二への嫉妬よりも、良い雰囲気でここまで並んで歩いていた二人が付き合っているのではないかという疑問が湧いて来てしまったらしい。


 何でも恋愛に結び付けてしまうあたり、凛香も一応女の子ということだろうか。結局優花は、凛香に引っ張られるようにして真央達に合流することになった。


「あれ? 兄貴じゃないっすか! どうしたんすかこんなところで?」

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