乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その三百九十八
文化祭と男女混合ミスコンに集中し過ぎてたのもあってすっかり忘れてたけど、そういえば文化祭の後は後夜祭があったことに気が付いて急にそわそわし始める。後夜祭のプログラムを知らないけど、きっと歌ったり踊ったりするんだろう。
凜香さんとダンスしたり……とか?
男女混合ミスコンでグランプリを取ったことで凜香さんの人気は爆上がりして凜香さんをダンスに誘ってくるライバル達も大量発生するのは明白、これは相当厳しい戦いに……。
「何ですの?」
「いや、別に……」
うん、全然そんなことはなかった。
パーフェクト凜香さんからいつもの凜香さんに戻った凜香さんに声をかけてくる人は皆無、結局凜香さんの隣を確保するのはめちゃくちゃ簡単で、嬉しい誤算というやつだった。
「凜香さん何で一人だったんですか?」
いや、本当に何で一人で居たんだろう。
後夜祭は生徒だけとは言え、まだこんなに人が居るし、さっき男女混合ミスコンでグランプリを取ったばかりの凜香さんだと認識はされてるはずなのに遠巻きに視線が注がれているだけで、誰も声をかけようともしてなかった。
「……ケンカ売ってますの?」
「あっ、いや、変な意味はなくてですね……」
凜香さんにぎろっと睨まれて慌てて弁明しようとすると、
「……ふん。まあいいですわ。許してあげます」
特に言い訳しなくても意外にあっさり許されてしまった。これはもしかして……相当機嫌が良い?
ちらっと横顔を見てみると、やっぱり今にも鼻歌を歌いだしそうなレベルで機嫌が良さそうな感じ。
よっぽど男女混合ミスコンのグランプリを取ったことが嬉しいんだろう……いや、というよりも真央に勝ったことが嬉しかったのかもしれない。
それにしても、こんなに機嫌が良さそうなのにどうして誰も凜香さんに近づいて来なかったんだろう?
話しかけやすさのハードルで言えば今が一番低いと言って良い、それなのに誰も来ないことに違和感を覚えていると、
『グランプリってあの子だよな……?』
『絶対そうでしょ』
ちょっと離れた所に居た人達の声が聞こえてきた。
『いや、別人みたいににこにこしてるんだけど……本当に同一人物か?』
『そう言われると……うーん、双子の姉妹とか? わたしもわからなくなってきた……』
『だよなあ、あんなにきりっとした顔だったし……妹さんとか?』
『それは……どうだろう? わかんないなあ』
ああ、そういう……。
機嫌が良さそう過ぎて、いつもの凜香さんを知らない他人からしたらもはや別人レベルということらしい。たしかに男女混合ミスコンのステージでも凜香さんはあまり笑顔を見せてなかったので、これだけ笑顔だと同一人物なのか疑いたくなる気持ちはわかる。
……あとはまあたぶん、誰も声をかけてないから、きっとグランプリを取った子=凜香さんと確信が持てなかったんだろう。
さすがにいつもの凜香さんを知っている人達は同一人物だと確信が持てているはずだけど、その人達がまだ声をかけてないのは……たぶん凜香さんに声をかける勇気がないからだろう。
いつもの凜香さんを知らなくても声をかけられないし、いつもの凜香さんを知っていたらいたで声をかけられない……つまりはなるべくしてなった一人だったわけだ。
……とはいえ、誰かが声をかけていればみんな凜香さんの周りに来ていたかもしれないので、結局急いで凜香さんと合流して正解だった。
『隣の男子は? あっちもミスコン出場者だったり?』
『さあ……でもあいつが女装したってなれそうな子出場者に居なくない?』
……まあ、凜香さんすら同一人物と確信を持ててない時点でわかってはいたけど、誰も優花のことをさっきまで『お姉さま』なんて呼ばれて男女混合ミスコンで二位だったメイドと見抜ける人は居ないらしい。
いつもの凜香さんのことを知っていそうな人はそれなりに居そうだけど、優花のことに気が付いてそうな人は皆無っぽい雰囲気。それだけ優花が別人になれていたということだし、これは誇って良いだろう。
人前に女装で立つということには耐性ができて何とも思わなくはなったけど、できれば気付かれない方が良いので、このまま誰も気が付かないことを願う。
『じゃあ……彼氏とか?』
『いや、なんか普通に見えるし釣り合ってなくない?』
『だよねーそれはないか』
釣り合ってない……か、たしかにな。




