乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その三百八十九
この世界にゆうかとして転生し、凛香さんに出会い、凛香さんを救うと決めてそれだけを目標にここまで過ごしてきたけど、凛香さんを救った後のことを全然考えてなかったことに気が付く。
優花にとってこの世界はマジハイのゲーム世界だったけど、主人公が居なくなり、この世界をゲームたらしめていたルールもなくなり、ただの現実になった時、優花はこの後どうやって生きていきたいのか。
そんなある意味将来が不安という高校生らしい現実的な悩みが急に目の前に突き付けられた気分になる。
考え込んでしまって少し止まってしまった優花を見て、翡翠と竜二が首を傾げる。
「どうした同士?」
「どうしたんすか兄貴?」
「いやっ、何でもない」
……でもまあ、凛香さんが幸せに生きていてくれればそれでいいかな。
何になりたいのか何て答えはすぐには出てこない。もちろん叶うことならこの先の未来も凛香さんの隣に居たいとは思うけど、極論凛香さんが幸せでいてくれるのなら何だっていい。
そう結論付けた優花がメイクセットを片付けようとした手が……再び止まる。
思い出したのは、いつか三日月先生に言われた言葉。
『それじゃあ不藤君の目的は、虚空院君を不幸な運命から救うこと……そして、元の世界に戻ること……ということですか』
願いを叶えてくれる伝説の白桜で凜香さんを救うことばかり考えていたけど、もしも本当に凜香さんが既に救われているのなら、元の世界に戻るという願いを叶えるという選択肢が現実味を帯びる。
正直もう元の世界に戻ることはあきらめていたけど、改めて考えれば戻ることができるのなら戻りたい気持ちも少しはある。
世界の強制力等ルールがあるゲーム世界とはいえ、普通に生きている分にはこの世界はほとんど前の世界と変わらない。じゃあ何で戻りたいのかと言われると結局この世界での優花はあくまで「灰島ゆうか」であり「不藤優花」ではないという一点だ。
この世界にマジハイのキャラクター「灰島ゆうか」として転生したという意識がある以上、やっぱり優花は「ゆうか」本人ではなく言っちゃえば偽物でこの世界にとってはイレギュラーな存在。
もちろん凜香さんを筆頭に翡翠、竜二、深雪先輩とかとの関係性は優花がこの世界に転生してから築いたものだし全てが「灰島ゆうか」に依存しているわけじゃないけど、例えば花恋は「ゆうかの妹」としての関係性がこの世界に転生してから元々あったもので、これは「灰島ゆうか」だからこその関係性。
本当の自分、不藤優花としての優花を知っているのは、この世界では三日月先生ぐらいだろう。
今さらみんなに実は自分は「灰島ゆうか」ではなく「不藤優花」です……なんて言ったところで、理解してもらうことはできないだろうし、最悪頭がおかしくなったのかと心配されるだけ。
要するに優花が不藤優花に戻るためには元の世界に戻るしかないわけで、この世界でこのまま生きていくのなら「不藤優花」としての自分はいずれ死んで、「灰島ゆうか」として生きていくことになるだろう。
「まあでも、やっぱり戻るのは無しかな……」
優花が元の世界に戻った時、この世界がどうなるのか……というより、凜香さんがどうなるのかもわからないし、それよりも何より元の世界には凜香さんが居ない。これが致命的だ。
既にマジハイのキャラクターとしての凜香ではなく、生きている一人の女の子の凜香さんが好きな優花にとって、凜香さんが居ない世界は色あせて価値がない世界。
例え「不藤優花」としての元の自分として生きていくことができないとしても、凜香さんが同じ世界で生きていてくれるこの世界の方を優花は選びたい。
「またぶつぶつと……自分の世界に入ってるっすね兄貴」
「同士あるあるだな。そのうち戻ってくるだろ」




