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乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい   その三十八

 この世界がゲームを元にした世界だと知りさらにその攻略情報までを知る楓と、竜二から出た想いの欠片。


 二つの新たな問題を前に、優花は知らず難しい顔になり歩いていると、優花のすぐ近くに見覚えのある黒い車が止まった。


「ゆうか君、どうしたんですか? 暗い顔をしてますけど……」


 車から出てきたのはめい。

 心配そうに顔を覗き込んでくるめいに心配ないと優花は手を横に振った。


「いやいや、何でもないですよ。それよりめいさんはどうしたんですかこんなところで? 買い物帰りとかですか?」

「いえ、これからお嬢様を迎えに行くところです」


 聞いてみると凛香は午後はピアノのレッスンがあったらしい。

 近くの家に住む有名なピアニストに指導を受けていて、そろそろ終わりの時間だというのでめいが迎えに来たところだったようだ。


 めいの提案で、家へと車で送ってもらえることになり、車に乗り込む。

 いつも通り助手席に座るも、話す気にはやっぱりなれず、楓と想いの欠片の件が頭の中をぐるぐると空回りし続けていた。


 現状答えが無い問題を考え続けていても仕方がないのだが、どうしても考えるのを止められずにいると、いつの間にか車は止まっていた。


「着きました。お嬢様を迎えに行ってきますので、中で待っててくださいね」


 めいが行ってしまい一人になると、優花は一人自分の胸に手を当てた。すると、柔らかな光と共に涙滴型をした想いの欠片が優花の手の上に乗った。


「出し入れ自由か……」


 手の上の想いの欠片をまじまじと見てみると、色は竜二の髪を彷彿とさせる灰色で重さは感じない。特に新たな手掛かりもなかったので想いの欠片をもう一度胸にしまうことにした。


 想いの欠片はあくまでエンディングの分岐条件をゲーム的にわかりやすくしただけのもの。それ自体に意味は無いはずなので、とりあえず今は放置しておくことに決めた。


 問題なのはやはり楓だ。

 気になったのは、楓の最後の言葉。最後に勝つのは楓というのはどういう意味なのだろうか?


 真央を妨害するでもなく、竜二との仲を後押ししようとしているあたり、楓は基本的に真央の味方をしていると考えて良いだろう。


 真央に誰かとのエンディングに至ってもらっては困る優花とは確かに敵対関係ではあるが、それなら勝ち負けとは『真央がエンディングを迎えるかどうか』になるのだろうか?


 ……いや、真央のエンディングが全てバッドエンドに繋がっている凛香さんならともかく、楓は真央が誰と結ばれようが関係はないか。


 勝ち負け……勝ち負け……あっ!


 他に何かわかりやすい勝ち負けがはっきりするものはないかと考えている内に、優花は白桜伝説のことを思い出した。


 最初に見つけた者のあらゆる願いを叶える白い桜――――これには明確に勝ち負けが存在する。


 楓の狙いが白桜だとすれば、真央の背を後押ししようとするのも納得できる。ゲームでの白桜出現条件は真央が全キャラを同時に攻略することだからだ。


 そう言えば最初に楓を見かけた時も、自分と一緒に帰っている友達に偽の白桜の話もしていたはずだ。


「……楓が犯人だったってことか」


 偽の白桜の話を広め、白桜を探す犯人は楓だと気が付いた優花はスマホを取り出し楓本人に確認しようとして、やめた。


「いや、だめか……」


 それを確かめたところでどうこうできるものじゃないと気が付き、息を吐きながらスマホをしまって助手席に深く座りなおすと。


 がちゃりと後部ドアが開いた。


「ふう、やっと終わりましたわ!」


 ピアノのレッスンを終えた凛香が、車に乗り込んできたとわかり、優花が振り返ると、凛香は既に車の中に入り優花があげた大きいディスミー君人形を抱っこしていた。


「……凛香さん?」

「ひゃっ! ゆ、ゆうかさん! 何故ここに!」


 ディスミー君人形の横から顔を出した凛香と目が合い優花は苦笑いをした。


「結構気に入ってくれてたんですね?」


 ディスミー君人形自体は優花が気が付かなかっただけで、車の中にはあったのだろう。 

 渡した時の反応があまり良くなかったので、少し心配していたが杞憂だったみたいだ。


 わざわざ移動中の車にまで持ち込む程度には気に入ってくれていたらしい。


「これはっ、ちがっ! 違いますわ!」


 真っ赤になった凛香は、すぐにディスミー君人形で自分の顔を隠してしまった。

 凛香の「違いますわ」は、基本的に真逆の意味なのはもうわかっている優花は本当に良かったと笑っているとめいが運転席に乗り込んできた。


「今日はゆうか君のせいで大変だったんですよ? 朝からずっとディスミー君? 人形を放してくれず、先生のお家にまで持っていこうとしていたんですから」


 ……なんかすいません。


 まさかそこまで気にいってくれているとは……。


「めい! やめなさい! それではまるでわたくしがゆうかさんからのプレゼントが嬉しすぎてはしゃいでいるように聞こえるでしょう!」


 相変わらずディスミー君に顔を隠したままで凛香が抗議するとめいは「はいはい」と言っていつも通り聞き流していた。相変わらず主人の扱いを心得すぎているメイドだ。


 いつも通りの凛香とめいに優花の顔には笑みが戻ってきていた。


 楓のことで思い悩んでいた気分はいつの間にか吹き飛んでしまい、帰りの車の中で優花は凛香とめいと話に花を咲かせた。



 そう言えば黒岩さんが言ってた、人生を左右する人っていうのは誰のことだったんだ? 



******


 楓がちょっかいをかけてくることもなく、想いの欠片についても特に進展はないまま、ディスミーパークに行ってから二週間ほどが経ち六月頭。


 昼までは日が出ていたのに、放課後になると急に雨が降りだし、優花が念のため持っていた折り畳み傘を取り出そうとしていると、視界の先に真央と竜二がいた。


「えっ? 八雲の姉御傘忘れたんすか? おれの入っていきます?」

「良いの? ありがと!」


 ああ、相合傘イベントね……。


 そう言えばそろそろそんな時期だったか。


 放課後に選んだキャラと一緒に相合傘で帰るイベントをどうやら真央は竜二とやるらしい。


 竜二と真央が背後の優花には気付かずに、行ってしまうのを見届けていると、背後から思わずぞっとするほどのプレッシャーがかかった。


 振り返って確認するとそこにいたのは、凛香。


「わ、わたくしでもまだ真央さんと一緒に傘に入ったことなど無いのに!」

「あー……」


 どうやら真央と一緒に相合傘をしている竜二に嫉妬しているらしい。


 ディスミーパークの最後の方に凛香は真央と少しだけ打ち解けることができていたが、やっぱり隣の席に座ると関係は元通りになってしまうらしく、二人の仲は元のまま。


 凛香と仲良くしたいけど、冷たく接してしまう凛香と、凛香に嫌われていると思っている真央という関係は変わっていないみたいだった。


 二人が仲良くなれば、凛香のバッドエンドも避けられると思ったけど、やっぱり簡単にはいかないか。


「凛香さん、えっと……」


 頬を掻きつつ凛香に声を掛けると、凛香に睨まれた。


「ゆうかさん! どういうことですの!」

「な、何がですか?」


 久しぶりにきっと睨まれ優花は思わず背筋が伸びた。


「獅道さんと言いましたか? 真央さんと傘に一緒に入ってましたわよ!」

「いや、別にそれぐらいなら……」

「いけませんわ! 同性ならともかく異性とだなんて! れっきとした不純異性交遊です! これはお二人を監視しなくてはなりませんわ!」


 不純異性交遊って……たしか死語じゃなかったか?


 なんだかこの理不尽な感じも久しぶりな気がする。無理やり凛香に腕を引っ張られ連行されそうになったが、外は雨。傘を持ってきていないらしい凛香を濡らすわけにはいかないので、優花が自分の折り畳み傘を開いて渡そうとすると、開いた傘の中に凛香が入ってきた。


「さあ! 行きますわよ!」

「えっ? このまま行くんですか? というか俺も?」

「ほら早く! お二人が行ってしまいますわ!」


 ぐいぐいと腕を引っ張られ仕方なくそのまま行くことになってしまった。


 一応相合傘なんだけど……気が付いてないなこれ。


 竜二と真央の方に気を取られているからなのか、凛香はどうやら優花と相合傘をしてしまっていることに気が付いていないみたいだった。

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