乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その三百七十六
昨日来た時はこんな感じじゃなかったのに、どうしてこんなことに……。
「ど、同士、やっと来たか……」
「翡翠、どうしたんだこれ?」
「それがだな……」
翡翠は優花達と男子組の控室で別れた後、女装を解いてからお化け屋敷をやっているクラスの方へとそのまま合流した時には既にこの状態だったらしい。
「昨日、同士が改良しただろ?」
「たしかに色々改善するようにはしたけど、それだけでこんな風になるか?」
「昨日は文化祭でお化け屋敷をやるっていう珍しさだけだったからな……今日はクオリティが上がった結果、評判が相当良くなったらしくてな。口コミでこのお化け屋敷がすごいっていうのがめちゃくちゃ広まってるらしい」
「評判が良いなら何よりだけど、さすがに人来すぎだな……」
いや、本当に来すぎていて、お化け屋敷の入口から伸びる列は長い廊下を端までいってもまだ足りず、階段にも人が並んでいる。このままだともうすぐ別の階まで待機列を伸ばすことになるんじゃないだろうか。
「ああ、クラスのみんなはお化け屋敷に来てくれた人がすごく怖がってくれるしいっぱい人来てくれるからって喜んでるけどな。実際、休み取る時間もないからな、そろそろ誰か倒れてもおかしくないぜ」
いや、それは倒れる前に休憩を取ってほしい……。
「しかしこれだけ待ってる人が多いと、文化祭終了までに全員入れるか?」
仮に休憩なしでフル稼働させても、当然お化け屋敷というシステム上さばける人数には限りがあるわけで、そろそろ文化祭終了で入れなくなる人が出るんじゃないだろうか。
「一グループをだいたい五分と見積もって、どんどん入ってもらってるところだぜ。はい、お次のグループの方どうぞ~」
「はやめに最終グループの案内した方が良いかもな……何時間も待って時間切れで入れませんでしたってなったらトラブルになりそうだし」
「そうだな。わかった、それはこっちでやっとくから同士達はキャストを手伝ってくれ」
「キャストの方か……」
手伝いは受付の交代か、あるいはこの長すぎる待機列の誘導係でもすれば良いのかなと思ってたけど、考えてみれば受付にも誘導にもそんなに人数はいらないんだから手伝いが必要なのは必然的に脅かし役のキャストの方にはなるか……。
「ああ、受付はもう俺様が何とかするからな。休憩なしでやってるやつらと交代して休憩を取らせてやってくれ」
「わ、わかった。それじゃあ凜香さん、そういうことなんで……」
「ふふん! 任せなさい! わたくしの演技力でビビらせてさしあげますわ!」
人をビビらせるのとかが好きなのか何故かめちゃくちゃやる気に満ち溢れている凜香さんを連れて、スタッフ用の入口からお化け屋敷の裏へと向かう。
「だ、だめだ……おれはここまでだ……」
「くっ、私はまだやれ……やれる……あっ、だめかも」
何してるんだこいつら……。
お化け屋敷が想定よりも大きくなった関係上、かなり狭めになってしまったスタッフエリアに凜香さんと一緒に入ると汗だくのミイラ男と魔女がごろんと床に倒れたところだった。
「灰島と……虚空院さん、来てくれたのか……待ってたぜ……」
……見た目ミイラ男なのに、長年一緒に戦ってきた戦友感を出してこないでほしい。
「ああ、私達の願いが通じたのね……! 天は私たちを見捨ててなかった……!」
そして魔女も魔女でセリフがおかしい。たぶん演技のスイッチが入っているのと、ここまで今日一日脅かし役をやり続けた疲れで逆にハイにでもなっているんだろう。
「……あの、大丈夫なんですのこれ?」
「まあ、大丈夫でしょう。たぶん」
ミイラ男達の二人の顔は当然すごく疲れているけれど、それ以上に楽しそうではあった。……まあ限界は近そうだけど。
「悪いけど、追加でメイクをするから、もう少し頼む」
「くっ……ああ、わかった! ここはおれ達に任せてお前達は先に行け!」
「ええ、私は世界を救う魔女、これくらいではへこたれないわ!」
色々とツッコミどころが多い発言は完全にスルーして、ふらふらと立ち上がったミイラ男と魔女の二人が再び次のグループを脅かすためにスタッフエリアを出ていくのを見送る。
どう見ても二人共もう限界、これはこっちも準備を急いだ方が良さそうだ。
「……あの、わたくしやっぱりやめてもよろしくて?」
「ダメです」




