乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その三百五十七
物理学がわからないのは当然わたし達だけじゃないし、物理学を学んでいたとしても今の話は難しくて理解できた人はあんまりいないんじゃないかな……。
当然奈央ちゃん先生ファンである一部の生徒の反応以外は、微妙な反応で拍手も小さい。呆れてしまったのか、後ろで見ている深雪先輩が大きくため息をついてるのも見えた。
「友ちゃん、そろそろ戻ってきてー」
「……はっ!」
奈央ちゃん先生のアピールタイムという名の小授業も終わり、コメントがしづらい中で審査員の先生方が何とかコメントをひねり出している間に揺さぶり続けてようやく友ちゃんが通常モードになってくれた。
「まさか、不意打ちで授業をされるとは思わなかったよ……危なかった」
「にははっ……何も危なくないよ友ちゃん……」
ちょっと難しい授業をされたくらいで目を回して情報をシャットアウトしちゃうのはダメなので、友ちゃんはもう少し勉強を頑張った方が良いと思う。
「さっ、気を取り直して次は生徒会長さんかな?」
「にははっ、そうだね! 深雪先輩は何を……ってなんか変な曲が……」
今日実際に来て楽しむために、なるべく情報は入れないで来たせいで何が始まるのかわくわくしながら待っていると、深雪先輩の番になった途端に音楽がかかり始めた。
あえて口で言い表すなら『チャララ、ララ、ラ~ン♪』とかそんな感じの聞き覚えのある音楽……に似ている曲で、深雪先輩が何をするのかだいたい察っせてしまうのだから音楽ってすごい。
「マジックショーするの!? あの格好で!?」
「にははっ、宴会芸とかそういうイメージなのかな……」
そう、深雪先輩の今の格好は眼鏡の美人なOLお姉さん。今から深雪先輩がやろうとしているだろうマジックショーとはだいぶもかけ離れている感じがする。
小さいテーブルとその上に小さい黒い箱を移動させながら深雪先輩が前に出ると、一分間のカウント開始。
「うわ、本当に始まった」
「にははっ、なんかいっぱいスプーン持ってるね」
開始早々、1本のスプーンの硬さをアピールした後、すぐにテンポ良く次々と曲げていく。
「はやっ!」
「にははっ、どうやってるんだろう?」
最初の一本だけ上手く硬く見せていたのか、それとも最初の一本だけ硬いスプーンで、後は曲げやすい柔らかいスプーンだったり……?
正直スプーン曲げは、こんなに大きい会場に向かない小さいマジックだとは思うけど、マジックのクオリティは意外と高い。
「次は……千円札を出した? どうするんだろう?」
「折りたたんでもどしたら……すごい! 一万円札になってる!」
わたし的には鮮やかな手並みで流れるような一連の動作に、いつの間にか入れ替わっているお札にびっくりしたけど、友ちゃんは少し違った。
「すごい! あれができたら無限にお金稼げるね!」
「にははっ……友ちゃん、あれは種も仕掛けもある手品だよ……」
友ちゃんは千円札が本当に一万円札になったと思ったらしい……ピュアすぎて心配になる。
二つのマジックを披露して残り時間はあと少し。深雪先輩が最後に見せたマジックは……。
「すごい! 指が取れちゃったのに血が出てない!」
「にははっ、友ちゃん。驚くのそこなの……?」
まさかの指が取れたように見えるマジック。明らかに会場の規模に見合っていない地味なマジックだけど友ちゃんなんかは変なところにびっくりして喜んでいた。
大型モニターがあるおかげで全員ちゃんと見えたとは思うけど、会場全体の反応としては盛り上がりは正直いまいち。マジック自体のクオリティはちゃんとすごかったんだけど、この会場の規模だと盛り上がりづらい内容のマジックだったかもしれない。
やるならやっぱりわかりやすく空中浮遊とか、体がバラバラになっちゃうマジックとか、脱出マジックとかの方が良かったんじゃないかな? まあ……実際やろうとすると相当難しいとは思うけど。




