乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その三百五十六
まさにアイドルな感じで出てきた楓先輩のアピールは歌とダンス。
「にはははっ! 歌も上手いし、可愛いね」
キャッチーで観客も盛り上がりやすい感じの曲で、一分間という短いアピールタイムで最大限自分を良く見せるためにとても考えられているんだろうというのがよくわかる。
「うんうん、アイドルしてて良いね……」
後方腕組みおじさん……じゃなくて、前方で腕組みしてうんうん頷いている友ちゃんは放っておいて、楓先輩のアピールに集中していると、一分間はあっという間。
友ちゃんの言う通り、まさにアイドルだった楓先輩のアピールはかなり好評で観客からの拍手もかなり大きいものになっていた。
うーん……でも、満足はしてないっぽいなあ……。ずっと笑顔だけど、やっぱり目が笑ってないし……。
前会った時は普通に笑っていたので、そういう笑い方しかできないとかじゃない。観客の反応は中々好評だったけど、やっぱり昨日の票数の差を覆して逆転優勝するには足りないと自分で思ってしまっているんだろう。
『素晴らしいパフォーマンスでした。昨日とは別の曲にも関わらずどちらもクオリティが高かったと思います』
審査員の先生方のコメントを聞いている間も、楓先輩はにこにことした笑顔のまま。最後までアイドルをしっかりと保っていた楓先輩は本当にすごい。
『続いては、エントリーナンバー6番さんの一分間アピールタイムです!』
楓先輩がステージ後方に戻ると、代わりに前に出てきたのはヤンキー女子に扮した竜二先輩。
「今日入場してきた順でアピールするってことなのかな?」
「にははっ、そうかもね」
竜二先輩が軽く手をあげると、曲が流れ出し、アピールタイム開始。
「わぁ!」
一分間の計測が始まると同時、竜二先輩がいきなり見せたのはバク宙。
「にははっ、すごい!」
バク転や側転とかだけじゃなく、パンチとかキックもしながらステージ全体を使って華麗なアクロバットを見せ、最後に大きくジャンプした竜二先輩が見せたのはバク宙二回転。
「一人でアクション映画してるみたいだね……普通にあんな動きできる人間が存在するとは……」
「にははっ……もはや超人の域だね……」
もはや同じ人間とは思えないすごい技に拍手喝采。
普通にすごいパフォーマンスで女装とか全く関係なかったなとは思うけど、たぶん不器用だろう竜二先輩のアピールとしてはこれが一番正解だったんだろう。
主に竜二先輩の超人的な身体能力を褒めていた先生方の講評も終わり、次は奈央ちゃん先生の番。やっぱり今日の入場順がそのままアピールの順番なんだろう。
『それじゃあ授業を始める、一分しかないから良く聞け、まず等加速度直線運動の公式は知っていると思うが、これは……』
前に出てきた奈央ちゃん先生がいきなり始めたのは、まさかの物理の授業。
「友ちゃん、友ちゃん……ダメだ、目を回しちゃってる……」
勉強が苦手な友ちゃんは、奈央ちゃん先生のアピールタイムがそのまま一分間の授業だとわかった瞬間、くらくらと目を回して沈黙。
中等部のわたし達じゃまだ習ってない物理学だったけど、それなりにわかりやすく話してくれる……感じでもなく、話が専門的過ぎてほとんど入ってこない。
『……というわけだ。先ほどの最後のヤンキー女の動きも物理学なら説明できるということだな』
どうやら一分間でさっきの竜二先輩のバク宙二回転について説明してくれたってことみたいだけど、本当にそれがアピールで良いのかな……?




