乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その三百四十
「わかったっす、それじゃあ後で兄貴!」
「先に行って待ってるぜ同士」
「行ってくるね」
竜二、翡翠、ボスゴリさんが会場に向かっていき、めいさんと二人。
少しだけ手直しと言っていたのに、先ほどの優花を上回るスピードでメイクのクオリティを上げていくめいさんはさすがとしか言いようがない。
「昨日はすみませんでした、ゆうか君」
「え? ええと、何がですか?」
めいさんに謝られることが何も思い浮かばない。むしろ、こっちが色々と頼り過ぎていることを先に謝るべきなくらいだ。
「いえ、二人の良い時間を邪魔してしまったみたいで」
「あっ」
そう言われて思い出したのは、昨日の凜香さんとの別れ際。
めいさんが様子をうかがっていたことで凜香さんと二人きりだと意識してしまい、凜香さんと二人で居ることができなくなって逃げるようにその場を後にしたこと。
「い、いえ。良い時間って、そんなことないですから! それよりも、昨日はありがとうございました。今日も手を借りることになると思うのでよろしくお願いします」
凛香さんとのことをこれ以上いじられるのは恥ずかしいので、別の話題に強引に変えようとして少し早口になってしまった。
「ふふっ、ええ、任せてください」
くすっと楽しそうに笑うめいさんは、リリーシャさんのように優花の心が読めてるんじゃないだろうか。
「さ、できましたよ。頑張って」
「はい、ありがとうございました。行ってきます!」
めいさんによって完成したメイクは短時間でやったとは思えない程のクオリティ。やっぱりまだまだめいさんには勝てそうにない。
ステージに向かいながら、優花は再び自身の中のスイッチを入れるために、見えない仮面をつける。
昨日は超長時間めいさんの真似をしたことで、めいさんの動きが体に馴染んできたものの、同時に反省点も多々あった。それを活かして今日はより本物のめいさんに近づけるようになりきってみせる。
今日の登場順は昨日とは違い、先に女子組で、次に男子組。優花が到着すると既に男子組の入場が始まっているところだった。
「む、来たか」
「兄貴! 良かった間に合ったっすね」
今日の男子組の登場順は、ボスゴリさんが先頭で次に翡翠、竜二、深雪先輩で優花という感じらしく、既にボスゴリさんと翡翠はメインステージに上がっている。
「お待たせしました。ご心配おかけしてすみません」
「兄貴が間に合うように牛歩戦術で時間稼ぎでもしようかって話してたところっす。本当に間に合って良かったっすよ」
「それは……本当に間に合って良かったです」
本当に牛歩戦術でみんながわざとゆっくり歩いて時間稼ぎしていたら、みんなにも迷惑をかけてしまっていたし、楓あたりがキレそうだ。
竜二と深雪が次々にメインステージに上がり、最後は優花。昨日と同じように段を上り、皆が待つメインステージに上がると……。
「わーきれー!」
「最後は女子か……レベルが高いな」
「おやおや、めんこい子だね」
昨日の白桜学院の生徒だけだった時とは違い、子供から老人まで、老若男女様々な人が優花達に視線を注いでいる光景に少し気圧されそうになったものの、ぐっと堪え余裕の笑みで手を振ってみせる。
『きゃーーお姉さま―!』
……お姉さま?
そういえば、昨日凜香さんと一緒にファン対応をしている時もお姉さまと何度か言われてたけど、もう一部のではお姉さま呼びで定着しているらしい。
初めて黄色い声を向けられたわけだけど、これは優花に向けられた言葉というよりは、モデルのめいさんに向けられているようなもので、全然嬉しくない。……まあ、女装のクオリティの高さを証明してくれてはいるとポジティブにとらえておこう。




