乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その三百二十八
「ふーん……そうだと良いのですけれどね」
じろっと鋭い視線で見てくる凜香さんから黙って顔を背けることしかできずにいると、リリーシャさんがパンパンと手を叩いた。
「はいはい。そこまでにしな。それよりも占いをするよ、淀、それから竜坊ここからは部外者立ち入り禁止だよ。しばらく二人でどっか行っといで」
「部外者じゃないと思うけど……それにどっか行くって言われても……」
「それじゃあ食い物でも買ってきな。そうだね……何かうまいものでも買ってきな。ほら行った行った」
「あれ本当にお前のばあちゃんか……?」
お金を渡されてからしっしっと追い払われ、淀と竜二の二人は占いの館から出て行った。
もしかしなくても、リリーシャさんは淀が竜二のことを好きだと知っていて二人で文化祭をまわってこさせようとしているのだろう。
「さて……それじゃあとっとと始めるよ」
リリーシャさんは淀がテーブルの上に残していったタロットカードの束をしまうと代わりに水晶玉を取り出した。
「はい、お願いします」
「わたくしも心の準備はよろしくてよ」
思えばリリーシャさんに占ってもらうのはこれが初めて。どれぐらい当たるのかすら聞いてないけれど淀と同等以上と思っておいた方が良いだろうか。
「ああ……先に言っておくけどあたしの占いは百発百中とかではないよ」
「え? そうなんですか?」
以前同様、リリーシャさんの占いの実力について考えていた優花の心を読んだのだろう。読心術自体には驚かず優花が小首をかしげるとリリーシャさんは指を一本ぴんと立てた。
「淀は占いで未来すら正確に当てるけどね、それはピンポイントで事象に焦点を当ててとらえているからなのさ。この先どんな未来を辿っても同じ結果になるそういう事象にね。だからどんな未来でも当てられるわけじゃないのさ」
「ええと、つまり未来が全部見えているわけじゃなくて、あくまで一部を見ているだけと?」
「そういうことだね。それでだね、あたしの占いはもっと広く全体を見てる。だから正確性はないけどね、これからどんなことが起きるか、起きそうかはだいたいわかる」
「なるほど、わかりました」
淀の占いが限定的な代わりに正確な未来予知、リリーシャさんの占いはもっとふわっとした……一般的な占いのイメージに近いだろうか。まあたぶん、淀も似たようなことはできるだろうけれど、リリーシャさんの場合はより精度が高いんだろう。
優花の返事を聞いたリリーシャさんが手を水晶玉にかざした瞬間、ぞくっとした感覚があった。
「……なるほどね。淀が占えないわけだよ」
小さくそう言ったリリーシャさんは、そのままもう少しだけ手をかざしたものの、急にぴたりと手をかざすのをやめてゆっくりと優花の方を見た。
「ゆう坊、あんた……」
「えっと……?」
まるで宇宙人でも見たようなリリーシャさんの反応を見て、優花は自分が元々今世界の住人じゃないことを思い出した。
あくまでさっきのは未来を例にしただけで、リリーシャさんは優花の過去も占ったのだろう。
このマジハイの世界に来て早数か月、もうすっかり馴染んでしまってついつい忘れかけてしまうけれどこの世界にとって優花は異物。リリーシャさんが具体的に何を見たのかはわからないし、どこまで把握したのかはわからないけれど、優花が普通じゃないことはわかったのだろう。
「あの、何が見えたんですの?」
「……」
当然の疑問を口にする凜香さんにリリーシャさんは一度口をつぐんだ。
何を言うべきか、何を言わないべきかを考えているのだろう。まあ、いきなり優花が普通じゃないと言っても凜香さんは意味がわからないだろうし、当然と言えば当然だけれど、正直その配慮は助かる。
優花の事情を通じて、もしもこの世界がゲーム世界だと多くの人が知ってしまった時、何が起きるのかわからないからだ。もちろん何も起きないかもしれないし、誰も信じないかもしれない。でも何か起きる可能性が少しでもあるのなら、避けるべきだろう。
「そうさね……あんた達にはこれまでも多くの試練があっただろう?」
「ええと、試練ですか?」
凜香さんはあんまりぴんと来ていないみたいだけど、優花はむしろ思い当たる節が数多くある。
「あんた達の行く先にも厳しい試練が待っているよ。特にこれからの半年はね」
「半年の間に試練が来ますのね?」
段々凜香さん前のめりになってきた。占いが好きみたいなので、結果は相当気になるらしい。
「ああ、それを全部乗り越えられれば……」
「乗り越えられれば……?」
ごくりと喉を鳴らす凜香さんに、リリーシャさんが一瞬にやりと笑う。
「まあ後は想像に任せるよ」
「そ、そんな……! 乗り越えられればどうなりますのよ!」
いや、続きはもうだいたいわかるような気もするけど……。
リリーシャさんが楽しそうににやにやと笑ってこっちを見てきたのを、優花は耳まで真っ赤になりながらそっぽを向いてかわす。




