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乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい   その三十二

 アトラクションから降りると、若干青い顔のまま凛香はふふんと腕を組み胸を張った。


「……ぜ、全然余裕でしたわね!」


 いつものごとく、なぜか強がる凛香に優花は疲れた笑みを向ける。


 いや、凛香さんが一番きゃーきゃー言ってましたけどね?


 どうやらスパーク・ホールでダメージがあったのは慣れていない優花と凛香だけで、残りのメンバーは何でもなさそうにけろっとしていた。


 正直もうしばらくはジェットコースターに乗りたくない。


 一応これで花恋が立てた予定に入っていたアトラクションは終了だが、最後にもう一つだけ予定が書きこまれていた。


「にははっ! あとはパレードを見て帰りましょう!」


 込み合う前に帰れるようにと花恋は予定を立てていたらしく、パレードも最後までは見ずに帰るみたいだった。


 とりあえずスパーク・ホールがある建物から移動していると、花恋の言ったように、最後の予定はパレードを見るだけだが、それはあくまで花恋が立てた予定なので真央と楓には本来関係が無かったことを思い出した。


「真央達はどうするんだ? 一緒にパレード見てから帰るか?」


 元々別で来ていた真央達にどうするか聞いてみると、どうするのかという感じで真央は楓の方を見た。

 やっぱり主導権は楓の方にあるみたいだ。


「……そうですね。これ以上進展はないとは思いますけど、まあ念のため最後まで一緒に回りますかね」


 念のためって……。


 もはや楓は自分がなにか企んでいるのを隠すつもりもなくなったらしい。


「そうだね、それじゃあ私達もパレード見てから帰ろうか」


 結局真央と楓と最後まで一緒に回ることになった。


 真央はともかく楓は油断ならないので、正直なところ帰ってくれないかなーとちょっと思っていたのだがまあ仕方がない。楓にだけ帰れと言うわけにもいかないだろう。


 アトラクションのほとんどでそれほど待たずにスムーズに乗れたため、パレードまではまだ時間があるようで、どうしようかという話になり、優花は少し考えてから手を上げた。


「んー……あっ、それならお土産とか買いに行くのはどうだ? パレード見た後だとそこそこ遅い時間になるだろうし」

「にははっ、そうだね! わたしもそれで良いと思うよ。まあパレード前はそこそこお店は混むけどね。もう一こくらいならアトラクションに乗ることもできるけど……」


 お土産と聞いて凛香の耳がぴくりと動いた。


「わたくしもお土産を買いたいですわ!」


 ディスミー君グッズでも買うつもりなのか、凛香が反応すると、真央も手を上げた。


「あっ、私も!」


 凛香と真央が賛成し、パレードまでの時間を潰すため全員でお土産を買いに行くことに決まった。みんなでお土産が売っているショップが並ぶ南地区へ向かう。


 南地区に着くと、あまり大所帯で店に入っても邪魔なので、後で集合しようとそれぞれ一度バラバラに。


 花恋は凛香を連れて行き、竜二は淀を誘っていたが、楓が真央と一緒に無理やりその後をついていくなか、優花は少し皆に隠れて買いたい物があったので、一人ショップを見て回ることにした。


 南地区は、雨の日でもショッピングを楽しめるようにするため地区全体を覆う巨大な屋根が特徴的だった。並んでいる建物はどれも西洋風の雰囲気で、中に入ってみると、様々なグッズが並んでいた。


 女性向けだけではなく、男性向けの商品や、高級品を扱った宝石店などもあり、バリエーションはなかなか多い。ディスミー君を知らないというだけで驚くのも無理はないのかもしれないと思わされた。


「んー……ないな」

 

 大きめの缶に入ったクッキーや、キャンディー、ディスミー君の耳を模したカチューシャ等様々な種類のものが売っている店や、ぬいぐるみだけを集めた店など無数の店に入り店内をくまなく見て回るが、目的の物はなかなか見つからなかった。


 惜しい物は多くあるのだがなかなか『これ』という物には巡り合えず、次々に店を変えていくと、南地区の奥、ひっそりとした誰も来なさそうな店でようやく優花の欲しかった物が見つかった。


「……いや、でかいな」


 優花が買おうと思っていたのは、ディスミー城仕様の王さまっぽい服を着たディスミー君の大きいぬいぐるみなのだが、優花が見つけたそのぬいぐるみは優花の背の半分くらいはある巨大なぬいぐるみだった。


 持ちかえるのが面倒臭そうだなと思いつつ、値札を探すと、値段がついていなかった。


「あれ? 値段が無い……」


 買うかどうかは正直まだ迷っているところだったが、一応値段だけは知りたかったので、いつの間にか近くに立っていた店員さんに話を聞いてみることにする。


「あの、すみません」

「はい、なんでしょうか?」

「あのディスミー君のぬいぐるみなんですが……」


 でかいディスミー君のぬいぐるみを指さしながら尋ねると、店員さんはレジの下から四角い箱を取り出した。


「あ、あれですか? あれはくじの景品となっております!」

「……くじ?」


 ばっと振り返りディスミー君のぬいぐるみの方を見ると、たしかにディスミー君の頭上に一回七百円くじと書かれていた。


 な、七百円? 高くないか?


 ディスミー君ビッグぬいぐるみの近くにあるくじの別の景品を見てみると、ディスミー君のペンだったり、手帳だったり、小さいぬいぐるみだったりといった小物が並んでいた。


「ええと……もしかしてあの大きいのって」

「はい! A賞です!」


 完璧な営業スマイルを浮かべながら言う店員さんに優花の頬は引きつった。


 今から別のものを探すか? ……いや、もうほとんどの店見たしなあ。


 腕時計を見ると集合時間まで残り少ない、ここからまた探していると何も見つからない内に集合時間になってしまいそうだった。


 仕方ないのでとりあえず一回やってみると、出たのはディスミー君のペンがもらえる賞。A賞のぬいぐるみ以外はいらないので正直外れだ。


「……あー……もうやめとくかなー、でもなー……」


 特に運が良いわけでもない優花ではあのディスミー君を入手するのは、厳しいとわかってはいるもののどうにもあきらめきることができなかった。


『ここでやめたら今の七百円が無駄になるんじゃないか? もう一回やったら出るかも』


 脳内で悪魔の囁きが聞こえた優花はごくりと生唾を飲み込むと、底なしの沼へと一歩足を踏み入れてしまった。

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