乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その三百十六
アピールの順番は、公平を期すためにくじ引きで決められていて、トップバッターは翡翠。
「ふっ、行ってくるぜ同士」
「ええ、頑張ってください」
にこりと笑い、ひらひらと手を振って翡翠を見送る。
一分間のアピールタイムの後は、先ほどと同様に先生方の講評が入るため、全員分となるとそれなりに時間がかかる。待っている出場者には椅子が用意されていて、座って待つことができた。
「さて、奥真は何をするつもりだ?」
「あれ?アピールタイムにそれぞれ何をするのか確認してないんすか?」
「ああ。事前に何をするかは三日月先生にチェックしてもらった。自分がチェックしたのでは参加者から不満も出ると思ってな」
歓声を浴びながら一人前に出る翡翠を見ながら深雪と竜二がもうすっかりいつもの感じで話しているものの、一応ここはステージの上。
未だ観客の視線は注がれているわけだけど、ちゃんとわかってるんだろうか。……特に座り方まで普段通りになっている竜二。
『それでは一分間のアピールタイムスタートです!』
早速開始のアナウンスと共に翡翠がし始めたのは――――。
「あー……これってあれっすかね?」
「ああ、なんと言ったか……アイドルがよくする……」
「ファンサ……ですね」
竜二と深雪と一緒に優花も思わず微妙な顔をしてしまうのも仕方がない。翡翠がステージ上で始めたのは、ファンのうちわに書かれたお願いをする『ファンサ』。
目に入ったうちわの指示を片っ端からこなし、手を振ったり、投げキッスをしたり、ポーズを取ったりしているが……。
「ふむ……一分間のアピールタイムでできるファンサの数など限られていると思うが……」
翡翠のファンサをするという発想は悪くないのかもしれないけれど、結局ファンサをして一番喜ぶのは拾ってもらったファン。新たなファンの獲得を考えた時、ファンサはそれほど効果的な作戦とは思えない。
「確実に自分のファンを確保しておこうってことっすかね?」
「かもしれませんね。それよりも、何で観客の方もちゃんとうちわを準備してるんですか……」
翡翠がしている女装はゴスロリとはいえ、たしかに元々男子組の中で一番アイドルっぽいのは翡翠だけど、それにしても準備が良すぎる。
翡翠のファンサにそれなりに会場は盛り上がったものの、結局翡翠が一分間にできたファンサは十個程度。正直これで票が大きく動くことはないだろう。
「ふう、やりきったぜ……」
……まあ、晴れ晴れとした笑顔で戻ってきている翡翠的には満足しているみたいなので、余計なことを言うのはやめておくことにする。
「さて、次だが……」
「次はあの知らん女子っすね」
「知らん女子はちょっと……」
まあ特別知り合いでもないし、知らん女子で合ってはいるけど、何か他に言い方はなかったんだろうか……。
翡翠の次と、その次は連続して優花の知り合いではない名前も知らない女子二人。一分間のアピールタイムでしたことはそれぞれスピーチと自己PR。
マイクを持ちながら、それぞれ環境問題に対するスピーチをしたり、自分の良いところをアピールしたりして一分間のアピールタイムを使っていた。
「ふむ……内容的には悪くないが、もう少し多角的な視点を取り入れてほしいところではあったな」
「いや、何でスピーチの内容にコメントしてるんすか……」
「自己PRの方はそれなりに効果的だったと思いますけど…」
内容的にはそれほど悪くはなかったものの、たった一分のスピーチ、たった一分の自己PRでは、やっぱり限界がある。観客の反応的にもそれほど観客の心をつかめたようには思えない。
「よし、ではそろそろ自分の番だな……」




