乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その三百十五
「ふっ。いよいよこの時が来たな同士……」
「ええと、『いよいよ』とは?」
雰囲気的には因縁のライバルが満を持して戦う直前……みたいな雰囲気を何故か出している翡翠に、
何かあったっけと思いながら、優花が困ったように笑うと、翡翠はビシッと指を突きつけてきた。
「ああ。優勝は真央に間違いないが、二位は俺様と同士の勝負になるだろう? 女装のレベルでは同士に勝てないからな。この一分間のアピールタイムで逆転させてもらうぜ」
「なるほど。そういうことですか……」
翡翠的にはライバルはあくまで優花ということらしい。さっきまで疲れきっていて大丈夫かと心配していたけど、こんなことを言う元気があるなら大丈夫だろう。
……そして、今の翡翠の発言は一つ訂正しておかなきゃいけないことがある。
「どちらが勝つかの勝負ですね。……まあ優勝は凜香さんに決まってますからね」
「ははは、同士は面白いことを言うなあ。優勝は真央に決まってるだろ?」
ここだけは譲れないと、お互いの視線がぶつかり合い、バチバチと火花を散らしあっていると、
「いや、何で変なところで争ってるんすか……」
呆れた感じで竜二にツッコまれた。
「放っておけ。それよりも、そろそろステージに上がるぞ」
「そうっすね……」
「ははは……」
深雪と竜二とボスゴリさんがそれぞれ優花達の横をスルーして控室を出た後、
「ゆうか君もそろそろ行った方が良いかと」
「あっ、はい。すみません」
普通にめいさんに促され、翡翠と一緒に慌ててステージへと向かった。
*****
『それでは、時間になりましたので、白桜学院文化祭男女混合ミスコン一日目、昼の部を始めさせていただきます』
再びステージに集った優花達参加者に、観客席が沸く。開会式直後の時でもかなりの人数の人が来ていたけれど、今は更に多くなっていた。
「いや、来すぎだろ……」
「ほぼ全員来てるんじゃないか……?」
横で竜二と翡翠が更に増えた観客の数にビビる中、深雪と優花の心配は別にあった。
「盛況なのは良いが、これほどとは……」
「明日は一般の人も入られますし、この感じだと何か考えないと駄目ですね……」
そう。明日の文化祭二日目は一般の人が来場できるため当然更に人は増える。明日も同じ会場だと明らかにキャパをオーバーしてしまうことだろう。
「今考えられるのは、別の会場を押さえるのか、屋外にステージを新しく組んでおくとかですかね……」
まあ、当然会場になり得る別の建物は予定が詰まっているし、今から屋外にステージを組むのも正直現実的ではない。何か別の手を考えた方が良いだろう。
「どちらも難しいだろうが、後で検討しよう。まったくトラブル続きだな……」
珍しくボヤいている深雪だが、その口元は笑みを浮かべていて、どこか楽しそうだった。
「……楽しむ余裕があるなら大丈夫そうですね」
開会式の時の余裕の無さはどこへやら。文化祭が実際に始まった今、気負いも緊張もなくなってきたらしい。
忙しいし、問題は山積みなことに変わりはないけれど、きっとそれすらも楽しんでいる今、深雪の状態はとても良い。
「む? 何か言ったか?」
「いえ、なにも」
変に意識させないように笑みで誤魔化すと深雪は首を傾げ、ずれた眼鏡をクイッとしていた。
『これより出場者にはそれぞれ一分間のアピールタイムが与えられます。そこで何をするかは基本的には自由です。自分を最大限アピールできるチャンスをつかみ、最も多くの票を獲得するのは誰になるのでしょうか!』
優花達が前を向きながらひそひそと話している内に、男女混合ミスコン昼ステージの説明も終わり――――いよいよそれぞれのアピールタイムが始まった。




