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乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい   その三十一

「にははっ! お兄ちゃんお待たせ!」


 花恋達との合流地点についたのはほぼ同時。

 花恋だけ軽快にたったったっと走って優花達の方に近寄ってきた。


「別に待ってないよ、それよりそっちはどうだった?」

「どうだったって……うーん……」


 腕を組んで目をつぶり首を傾げ悩む素振りを見せる花恋に、優花は不穏なものを感じて竜二達の方を見ると、真央と竜二、淀と楓が並んでいた。


「楓先輩が隙あらば真央先輩を竜二先輩とくっつけようとして大変だったよ……」


 どうやら優花がいない間、花恋が頑張ってくれていたらしい。

 優花が竜二と淀をくっつけようとしているのを察してくれていたのだろう。


 気の利く妹だと花恋の頭を撫でていると、ようやく竜二達も合流した。


「凛香さん。体調は大丈夫なんですか? ディスミー城に行ったって聞きましたけど……」


 合流して早々、真央が心配そうにそう言うと、凛香がまた緊張したのがわかった。このままだと、また真央に冷たいことを言うはずだ。


 凛香が焦って何か言おうとした瞬間、優花は皆に見えないように凛香の手をつかんだ。


 優花がぎゅっと手をつかむと、一瞬はっとした凛香はすぐに落ち着きを取り戻し、微笑んだ。


「心配してくれてありがとう、真央さん。もう大丈夫ですわ」

「そっ、そうですか! 良かったです!」


 凛香に素直にお礼を言われたことに一瞬真央が驚いていたが、すぐに嬉しそうに笑っていた。

 凛香と真央が二人共笑っている姿を見るのはこれが初めてかもしれない。


 よしよし、上手くいった。


 優花が繋いでいた手を離すと、楓が優花の方を少し鋭くなった目で睨んでいたことに気が付いた。


 やっぱり、楓は凛香さんと真央に仲良くしてもらいたくないみたいだな……。


 楓の目的がわからないが、現時点をもって優花の中で楓は敵……はちょっと物騒すぎるので、ライバルぐらいの認識に。


 楓を警戒しつつ、いよいよ最後のアトラクションであるスパーク・ホールへ。


「それで? スパーク・ホールはどういうアトラクションなんだ?」

「スパーク・ホールは暗い鉱山の中をトロッコで駆け巡るっていうアトラクションだね。ディスミーパークの中で一番スピードが出るし、最初と最後に一気に落ちるんだ!」


 一番スピードが出るのか……。


 凛香さんは大丈夫かなと見てみると、真央に素直にお礼を言えたことが嬉しいのかふふーと上機嫌に笑っていた。たぶん次のアトラクションのことは頭から抜けているだろう。


 まあ今までのアトラクションもスピードは大したことなかったので、大丈夫だろと意識を切り替える。


 問題なのはやはりペア分け。このままだとまた、楓にペアを決められてしまうので、優香は一計を案じることにした。


「竜二と花恋! ちょっと」

「え? なんすか兄貴?」

「なにお兄ちゃん?」


 スパーク・ホールへと向かう途中で、竜二と花恋と三人、皆から少しだけ距離を取り、優花が思いついた作戦を告げた。


「はあ……兄貴がなんでそんなことをするのかわかりませんが。わかったっす!」

「んー……わかった!」

「協力してくれるか、ありがとう!」


 竜二と花恋を味方につけて、皆の所に戻ると、さっそく楓が話しかけてきた。


「灰島先輩達何を話してたんですか?」


 明らかに楓は優花を警戒して探りを入れてきているのがわかった。


「いや、何でもないよ。それよりほら! スパーク・ホールってあれじゃないか?」

「……ちっ」


 上手く誤魔化せたと思っていると、横で小さく舌打ちが聞こえた。

 また少しだけ行列に並び、いよいよ席順を決める段になって、優花はすかさず楓の肩をがっしりと後ろからつかんで押した。


「よし! 楓は俺と乗ろうか、あとは残った皆で決めてくれ!」

「あっ! ちょっと!」


 楓に何もさせないためには、何かするまえに潰せば良い。花恋では抵抗されてしまう可能性があるので、優花が楓と一緒に乗ることにした。


 ちらっと竜二にアイコンタクトすると、竜二はこくんと頷く。


「うし、それじゃあおれは淀と乗りますね!」

「……えっ? ……う、うん」


 竜二が淀の手を取りトロッコ風の乗物に乗りこんであと三人。

 残ったメンバー的に今までで言えば凛香と花恋を組ませて、真央を一人にしてしまうのがベストだったが……。


 優花が今度は花恋に目配せすると、花恋がにかっと笑って頷いた。


「それじゃあ凛香お姉ちゃんと、真央先輩が一緒に乗ってくださいね!」

「え、ええ」

「う、うん」


 花恋に促され凛香と真央がペアになり、最後に花恋が一人で乗った。

 また凛香が真央に緊張して楽しめない可能性もあったが、優花は凛香を信じることにした。


 今度は優花がいなくても上手くやってくれるはずだ。


 全員の席が決まり、安全バーが降りるまでの短い間に楓がじとっと優花のことを見てきていた。


「楓? どうかしたのか?」

「やっぱり楓の敵は灰島先輩だったみたいですね?」


 いやらしく笑う楓に優花はやっと本音を見せたかと気を引き締める。


 とりあえず今はまだ楓に優花も警戒していることがばれるのはまずい。険悪なムードが出てしまい、これが終わった後の夜のパレードを皆が楽しめなくなるかもしれないからだ。


「敵? 何の話だ?」


 優花が本気でわからないという顔をすると、楓はすっと目を細めた。


「へー……とぼけるんだ」

「よくわからないけど、ほら始まるみたいだぞ?」


 花恋の言った通り、出発してすぐに大きな落下と共に暗い穴に入った。

 トロッコが火花を散らして走るのは鉱山の中。


 今までのアトラクションとは段違いのスピードに優花が口を閉じて耐えていると、後ろからきゃーきゃーという凛香と真央の声が聞こえてきた。


 さすがにこのスピードでは隣と話すこともできないので、席順はどうでも良かったのかもしれない。


 数分間、高速で走り続けたトロッコが一度鉱山を抜け、ゆっくりと山を上る。


「……トロッコなのに山上って良いのか?」

「灰島先輩は細かいこと気になるタイプなんですね?」


 少しだけ余裕ができたので、楓に話しかけると楓は横目で優花を見ながら肩を竦めていた。


「細かいかな?」

「ええ、細かいですね。まるで嫁いびりする意地悪な義母のようですね」

「……例えが独特だな」


 そんなことを言っていると、いよいよトロッコは山の頂上へ。


「ここから一気に落ちますから口は閉じておいた方が良いですよ?」

「そ、そうか」


 楓の忠告に従って口を閉じると、トロッコはすぐに火花散る暗い穴に向かって落下を始めた。

 あまりの落下に優花は体が持っていかれ……いや、魂が抜けるんじゃないかと思ったがなんとか大丈夫だったらしい。


「んー、楓としては少し物足りないんですよねえ……って灰島先輩どうしたんですか?」

「……いや、何でもない」


 落下が終わり、放心する優花を楓が呆れたような目で見ていた。


「これくらいで情けないですよ、灰島先輩」


 全然余裕そうな楓に優花は、苦笑いを返すしかなかった。

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