乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その三百九
ビシッと指を突きつけてきた凜香さんに、感じたのは強い既視感。
あーこれは、あれか。悪役令嬢が主人公をライバル視している感じの……。
マジハイの作中でも何度もあった凜香さんの主人公に対するライバル発言だけど、問題は……。
いや、なんか真央よりもライバル視されてない……?
何でこんなに対抗心むき出しにされているのか。どうしてこうなったと頭を抱えたくなったものの、とりあえず表面上は出さず苦笑しながら手を振ると、凜香さんはふんっと前に向き直り、メインステージへと向かっていった。
凛香さんに意識が持っていかれていたせいで、真央に対する観客の反応の詳細はわからなかったものの、凜香さんが現れる前のメインステージはすごく盛り上がっていたが、凜香さんが現れた瞬間会場に訪れたのは数瞬の静寂。
大盛り上がりの状態から一転の静寂。
決して凜香さんの登場で会場が一気に冷めたわけじゃない、むしろその逆。あまりの素晴らしさにみんな声を失ってしまったのだろう。
「おお……」
多くの人がパーフェクト凜香さんの破壊力に屈してしばらく声を失っていたが、徐々に会場はまた盛り上がり始めた。
「レベル高いなあ!」
「綺麗……」
クオリティの高さに素直に感心する人、そして未だに凜香さんに見惚れてしまう人が男女を問わず続出している中、
「では灰島。自分が先に行くぞ」
「はい、お願いします」
深雪がメインステージへと上がっていく。
「会長ー!」
「かわいー!」
「ふっ、クールイケメンの女装というのも中々……」
文化祭の開会式の時に既に観客の前に出ているので、深雪への観客の反応は他の参加者に比べれば控えめ……かと思いきや、全然そんなことはなく、むしろ今回の方が黄色い声が大きい。
たぶん、さっきの文化祭の開会式の時は深雪の女装姿のギャップに不意打ちを食らったようになったのと、開会式なのであまり騒げなかったんだろう。
「それじゃあ、俺も行くかあ……」
深雪の登場から少し待ってから優花もメインステージへと足を進めると同時、広げた右手を顔の前へと持ってくる。
仮面をつけることで別の誰かになるという四五郎さんが出演していたドラマの主人公のように――――見えない仮面をつけることで、意識を切り替えた。
*****
アスリートがやるルーティンのようなものだが、自己暗示のようにこれをすることで優花ははっきりと役にのめり込むことができる。
四五郎さんとの特訓で習ったものだけど、これは四五郎さんが以前やっていたルーティンと同じものらしい。
「って、ああ、そんなこと考えてる場合じゃありませんね。集中しませんと……」
今の優花の格好は、銀髪ロング、そしてメイド服。
めいさんのことを知っている人ならわかっただろうけれど、この女装のモデルはめいさん。
文化祭の女装を何にするかめいさんに相談しにいった時に話の流れで何故か気が付いたらこうなっていた。
「まあ、めいさんが出なくて良かったです……横に並んだら勝ててるところがありませんし……」
メイクである程度誤魔化しているとはいえ、モデルのめいさん本人が凜香さんに負けず劣らずの美女、元々の素材が違い過ぎて勝負にもなっていない。
役に入り込みすぎて独り言が増えながら、優花が開会式の際に続いて再びメインステージへと上がると――――。
「で、でたー!」
「ねえ、これ本当に男子……なの?」
「いや、女子でしょこれは……」
観客の反応を一言で言い表すなら……『混沌』だった。




