乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その三百三
余計なお世話になるかもしれないけど、できることがあるかもしれない。
深雪と奈央、現在微妙な二人の関係が良くなるように新しい作戦を脳内でずっと練っているといつの間にか花恋は自分の部屋に戻っていて、一人になっていた。
「寝よ……」
色々と考えたけれど、結局二人の関係を良くするためのベストタイミングは文化祭が無事に成功した後という結論に至った優花は、文化祭での男女混合ミスコンにお化け屋敷、そして凜香さんを救うための準備と他にもやらなければならないことの多さに軽くめまいがしながら寝床についた。
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「今戻ったけど……どうしたんだ翡翠?」
いよいよ明日は文化祭の一日目。深雪に呼ばれて仕事を手伝った後、お化け屋敷用に割り当てられた多目的ルームで作業している翡翠とクラスメイトの元に戻ると部屋の空気が何故か非常に重いものになっていた。
企画をするクラスでも既に準備を終えて皆が帰っているところが多い中、何かトラブルでもあったのかと指揮をとっていた翡翠に聞いてみると、翡翠は深刻そうな顔で優花の方を振り返った。
「いや、同士。だいたいは完成したぜ? だから実際にやってみたんだけどな……」
「やってみたんだけど?」
優花が首を傾げると、翡翠は一度この場に残っているクラスのみんなの方を見た。
「いや、お化け屋敷なのにあんまり怖くないなって……」
「あー……」
あくまでリハーサルだからとお化け役の人のメイクは簡易なものになっているとはいえ、お化けの格好も飾りも手作りにしてはかなりクオリティが高いものにはなったけれど、やっぱり素人が作ったお化け屋敷の限界か、実際にお客さんを想定してやってみたところ、お化け屋敷としては致命的に怖さが足りないという結論に至ったらしい。
「どうすれば良いと思う同士?」
「うーん……」
本番は既に明日、作業時間も既にほとんど残されてはいない。今から新しく何か作ったり、全体を見直して一々改善している時間はない……というわけで。
「『怖さ』がいるっていうなら手はあるにはあるけど……」
「え? あるのか同士!」
驚く翡翠に優花が自分の鞄から取り出したのは……一枚の写真。
正直、本当に大丈夫かわからないので、あまり気は進まないけれど怖さが足りないというなら……『本物』を置いて怖さを足してしまえば良い。
元々もしかしたら使うかもぐらいに考えて一応学校に持ってきていた写真を裏返しのまま翡翠に渡すと、翡翠は受け取ってすぐ表にした瞬間真っ青な顔になり、すぐにまた裏返した。
「こ、これって……心霊病棟の時のか?」
優花と凜香、真央と翡翠の四人で行った日本最大級のレジャー施設『東京レジャーパラダイス』内にあるお化け屋敷『心霊病棟』のラストで撮った記念写真。
写っているのは、下手くそな笑顔を浮かべている優花と黒髪に白いワンピースの少女、そしてそんな少女と手を繋ぐ血まみれのナース姿の女性。
持ってくるときに一応確認のために見てみたら、少女の表情が以前の笑顔からなんだかわくわくしているような表情に変わっているように見えるのは気のせいじゃないだろう。
これがこの世界に来る前の世界だったのなら幽霊なんて居ないと存在丸ごと全否定するところだけれど、この世界はゲームを元にしたゲーム世界、幽霊がいたって何ら不思議はない。
心霊病棟の時も優花をびっくりさせるのを楽しんでいた少女のことだ、きっとこれを置いておけばお化け屋敷に来た人をびっくりさせに出てきてくれることだろう。
「ああ……ちなみにこれガチのだから扱いは慎重にな」
「ガ、ガチって……」
時間もないことだし写真を見て完全にビビってしまっている翡翠の背をぐいぐいと押し、お化け屋敷を出口から逆走していく。
「ガチはガチだ。もし破いたりしたら……本当に呪われるかもな」
「じょ、冗談だよな?」
「さあ、それよりもたぶんこれを置くだけでぐっと怖くなると思うぞ?」
「こ、これ本当に置くのか同士……?」
「大丈夫、大丈夫……たぶん!」
「たぶんって! 同士―!」
翡翠の悲鳴がお化け屋敷に響く中、お化け屋敷の中間付近に無事に写真を置いたところ、くすくすと楽しそうに笑う少女の声が――――聞こえた気がした。
心霊病棟の話は『その百四十』ぐらいです。まだまだ暑い今日この頃、ホラーでヒヤッとしたいかも……?




