乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その二百九十一
「ふう……」
とりあえずなんとかなったことにほっとしたものの、女装用にめいさんが準備してくれた服が破けてしまった。服がこれでは放課後のビラ配りは無理。また同じことが起きる可能性を考えればもう竜二に女装をしてもらうわけにもいかない。
「とりあえず着替えないと……って竜二?」
返事がないことを疑問に思い優花が振り返ると、そこにはウィッグを取ってメイクも落としたいつもと違い髪がセットされておらず、前髪が下りた竜二が目をうるうるとさせていた。
「ええと……どうしたの?」
竜二に限ってビビッて泣きそうってわけでもないだろうし、本当にどうしたんだろうと思っていると、急にガシッと竜二に手をつかまれた。
「ありがとうございます兄貴! 兄貴がかばってくれるなんて! おれ感激っす!」
「ああ、うん。別に気にしないで……」
どうやら優花がかばったこと自体が嬉しくて、目が潤んでいたらしい。
まあ、メンタルもフィジカルも強い竜二にとって誰かを守ることはあっても、守られることは少ないだろうから、こんな大げさな反応になるのも仕方がないのかもしれない。
時間的にもそろそろ撤収したいところなのに、竜二が感激し過ぎて手を放してくれなくて困っていると、
「……何してますの?」
横から声をかけられた。
振り向かなくてもわかる声の主は――――
「り、凜香さん……」
未だに謝れていない今、凜香さんとの関係はケンカのような状態のまま。露骨に避けられているせいでまともに凜香さんと喋ることはなかったのだが、何で今は話しかけてくれたのだろうか。
ひしひしと伝わってくる凜香さんの不機嫌オーラにビビりながら、ゆっくりと振り向くと案の定凜香さんはめちゃくちゃ機嫌が悪そうな顔。そしてその視線は優花達の繋がっている手に注がれている。
悪寒がして優花が手を引っ込めると、凜香さんの目つきの険しさがほんのわずかだけ和らいだものの、凜香さんが不機嫌なままであることは変わらない。
「……何してますの? と聞いているんですけれど?」
「ああ、はい。えっとですね……細かく説明すると長くなるんですけど……」
どこから説明したものか少し考える。
男女混合ミスコンの話からするか、それともビラ配りの話だけするか、それよりも今のトラブルの話だけをするか。
「簡潔に」
「あっ、はい」
テスト勉強の時のように、話さなかったことで逆に凜香さんの不興を買うのは避けないと、慎重にどこから話したものか悩んでいると、優花が悩んだのを察してくれた……というわけでもないだろうけれど、凜香さんの指示があった。
簡潔にと言われたので、生徒会の企画が男女混合ミスコンであること、そして参加者が足りなくて困っていたためビラ配りをしていること、そしてそしてビラ配り中に不良に絡まれてトラブルになっていたことを細かい説明を省いて話すと、凜香さんはそれだけで納得してくれた。
「ふーん……とりあえず、その男女混合コンテスト? の参加者を集めてますのね?」
「男女混合ミスコンです。男は女装で参加するんですよ」
「そう……だから女装してましたのね。わたくしはてっきりゆうかさんが女装趣味に目覚めたのかと……」
「いや、目覚めてませんから……」
一番気になるはずの女装のことを聞いてこないと思ったら、最悪の誤解が生まれていたらしい。しっかりと否定しておくと、凜香さんがくすりと笑った。
「ぐふっ……!」
色々あってここしばらく凜香さんと距離を取ってばかりだったせいで、凜香さんが少し笑ってくれただけで凄まじい衝撃が来た。
か、かわいい……!
最近は距離を取られていることにショックを受けてばかりで、心臓が高鳴り過ぎることはなくなっていたのに、今の不意打ちはずるい。




