乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その二百八十九
何か参加者を集められる良い案はないかと優花が考え込もうとした時、
「やあ、同士くん。困り顔だね?」
「うわ、出た……」
横道からひょっこりと顔を出したのは四五郎さんだった。
「ははは、ひどいなあ同士くん。僕を怪物か何かみたいに思っているのかい?」
「いや、そこまでは思ってませんけど。それよりもどうしたんですか? 今日はレッスン休みって言ったのは四五郎さんですけど?」
「はは、大丈夫。別にレッスンのために迎えに来たんじゃなくて本当にたまたま顔を見かけただけだから。それで、同士くん。何か悩み事かい?」
「悩み事というかですね……」
四五郎さんに素直に相談するのも若干抵抗はあるけれど、別に隠す意味もないので竜二にした説明をもう一度四五郎さんにすると、四五郎さんはなるほどと言って腕を組んだ。
「参加者集めね……」
「何か良い案ありますか?」
「うーん。人前に出るっていうのは中々勇気がいることだからね。こればっかりは当人にやる気がないとどうにもならないよ」
「ですよね……こうなったらビラ配りとかして地道にいくしかないんですかね?」
「まあ、それが妥当なところだろうね。まだ日付はあるし、多少は参加者も増えるんじゃないかな?」
あと二人で良い女子はともかく、やっぱり問題になるのはあと四人いる男子の方。ビラ配りで何とかなるのか疑問だが、他にやれることも思いつかない。
とりあえず帰ったら配るビラのデザインを花恋にでも相談してみるかと考えていたところ、竜二が「あっ」とつぶやいていきなりばちんと拳で自分の手の平を殴った。
「びっくりした! 急にどうした竜二?」
「兄貴! 良いこと思いついたっす!」
「良いこと? 何か良い案が浮かんだのか?」
「そうっす! 兄貴ビラ配りするんすよね? だったら……」
竜二の思い浮かんだ案を聞いて、優花は「いや、それは……」と否定しようとしたものの、
「良いんじゃないかな! うん!」
四五郎さんは竜二の案に乗り気になってしまったようで、結局二人にゴリ押しされる形で、竜二の案でいくことになってしまったのだった。
*****
「白桜学院文化祭男女混合ミスコン、参加者募集中でーす」
「お……お願いします……」
アッシュグレーのセミロングに白と水色を基調にした清潔感重視のゆったり系コーディネイトと、ブロンドにも見える茶髪のロングにスカジャンを使ったヤンキー女子風コーディネイト。
対照的にも見えるコーディネイトで朝、登校してくる白桜学院の生徒にビラを配っているのは……女装をした優花と竜二だった。
深雪を通して生徒会の許可を取り、花恋と楓の協力でビラを作り、めいさんにお願いしてメイクとコーデを準備してもらうことでようやく実現した竜二の案は、ビラ配りを実際に優花が女装して行うというもの。
実際に男子が女装をしてビラを配ることで、男女混合ミスコンの話題性を向上させビラ配りの効果を上げることも狙える妙案なのはわかっていたけれど……まあ女装を見られるのでやりたくなかったのだが、実際に女装をしてビラを配ってみると皆興味を引かれるらしく反応は上々。竜二の案は当たりだったと言えるだろう。
「はい、どうぞ。女性の参加者も募集してますから、ぜひ参加を検討してください」
元々めいさんから教わっていた女性らしい仕草は、四五郎さんとのレッスンのおかげで更に磨かれて見栄えも意識したものへと変わり、さらに四五郎さんが以前やっていた変声術もほぼ習得している今、声まで完璧に女性にしか聞こえないものとなっている。
四五郎さんが竜二の案に賛成したのは、こうしてレッスンの成果を優花に自覚させるためだったのかもしれない。
はあ……早く配り終わって着替えたい……。
愚痴をこぼしそうになる内心を完全に微笑で隠してビラを配っていく優花の意識は、あくまで通常通り。以前は女装をやめた際に記憶を失っていたが、それもなくなっている。
四五郎さんによればまるで役が憑依したように役に入り込むタイプである優花は、役に入りこみ過ぎて完全に意識を別物にしていた結果、役をやめると記憶まで失っていた……らしいが、今は役になりきっている意識もありながら、冷静にいつもの自分の意識もある。
不思議な感じだが妙にしっくりもくる。四五郎さんとのレッスンによって見られる恥ずかしさも克服済みの優花はひたすら登校してくる生徒にビラを配っていく。
「くそ……なんでおれまで……」
さらに完成度を上げた女装をしている優花に対し、恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら、ひたすらビラを配っている竜二の仕草はいつも通りの男丸出し。だが……それが逆に見た目は女子なのに男子のような動きをするヤンキー女子っぽく見えるのだからすごい。
まあこのへんは割と楽しそうにコーディネイトを担当してくれためいさんのおかげだろう。
「しょうがないでしょう? わたし一人でこんな量配りきれるわけないんだから」
「うっ、うっす……」




