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乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい   その二十八

「ま、まあ? 大したことありませんでしたわね!」


 コスモス・シップのアトラクションが終わった後すぐ、握っていた手を離しふふんと強がる凛香に、苦笑しながら、優花は赤い顔を見られないように皆から顔を背けた。


「兄貴……そろそろ認めちまった方が良いんじゃないっすか?」


 次のアトラクションへの移動中、まだ顔の赤みが引かない優花の横に、竜二が並んできた。


「……何がだよ?」

「兄貴は虚空院の姉御に惚れてるってことっすよ」


 ……ええい、面倒くさいやつめ!


「だから好きなのは認めるけど、付き合いたいとかじゃないって!」


 前も言ったことをもう一度言ってやると、竜二はいやいやと顔の前で手を横に振った。


「いやいや、どう見ても兄貴は虚空院の姉御に惚れてるっすよ。見ればわかるっす」


 いや、だからそれは推しキャラへの好意であって、異性として好きなわけじゃない……から!

 なんて言えるわけもなく、竜二のセットされた髪をわしゃわしゃしてお茶を濁す。


「俺のことは良いんだよ! それよりお前はどうなんだ?」

「おれっすか? 何がっすか?」


 うーん……こいつ本気でわかってないな……。

 ここで、すぐに淀とのことだと思いつかないあたり、竜二と淀のカップル化作戦はまだまだということだろう。


 ため息を吐きつつ、ちらりと淀を見ると、淀は歩きながら竜二のことを見ていた。

 淀の方は竜二にちゃんと気があるようで何よりだ。


「どうしたんすか兄貴、淀の方なんか見て?」

「別に、何でもない。それより次なんだっけ?」

「次は……ベアーハントっすね」


 ベアー……ハント……? 熊狩り? まさかテーマパークに来て、熊狩りをさせられる……のか?


 ゲームを元にした世界だから正直何が起きてもおかしくはないのが怖い。


 まさかのアトラクション名に驚愕していると、竜二は困ったように笑っていた。


「いやいや、兄貴。ベアーハントっつっても本当に熊狩りするわけじゃないっすよ?」

「……まあそりゃあそうだよな」

「逃げるクマを追いかけるっつう話のアトラクションなんすよ。たしか最後は……」


 竜二が記憶を探り、ベアーハントのオチを思い出そうとしていると、淀が竜二の服の裾を引っ張った。


「りゅう……ネタバレは……だめ」


 淀に注意され、竜二は自分が自然にネタバレしそうになっていたことに気が付いたらしい。


「え? おお、そうか、そうだよな。兄貴、乗ってみてからのお楽しみってことで!」

「いやまあ……別にネタバレしても良いんだけど……」


 クマ仕留めて終わるんじゃないの? と思いながらそう言うと、淀の顔が優花の方に向いた。


「せんぱい……だめですよ……」


 竜二同様、優花も注意されてしまった。


「はい、すいません」


 素直に謝ると、ベアーハントに到着。若干の待ち時間のあとすぐに出発になった。


「お兄ちゃん! わたしは大丈夫だってば!」

「いいから、座れって。俺は後ろのに座るから」


 ベアーハントは四人乗りの筒状の乗り物に乗って楽しむアトラクション。

 竜二と淀、花恋と凛香を先に行かせて、優花は一人別の車体に乗り込んだ。


 ベアーハントはそこそこ空いており、一人でも乗り込めるらしく隣は空席。後ろに人は乗ってくるだろうが、隣の人を気にせず楽しめるなと思っていると、いきなり背後からちょんちょんとつつかれた。

 

 ん? なんだ?


 振り返って確認してみると、そこにいたのは……。


「あれ? 真央? なんでこんなところに?」

「あはは……」


 なんと優花の後ろの席に乗り込んでいたのは真央と、そして金髪ツインテールの一年生、八手楓やつでかえでだった。


「こんにちは灰島先輩! 奇遇ですね!」

「君は……八手さんだっけ? なんで二人がここに? 知り合いなのか?」


 接点が全く無さそうな二人に首を傾げると、楓がにやりと笑った。


「楓で良いですよ、灰島先輩! 真央先輩とは年は違いますけど友達なんです!」

「友達ねえ……」


 なんだか真央が苦笑しているように見えるのは気のせいだろうか?


「ごめんねゆうかくん。まさかゆうかくん達もディスミーパークに来てるなんて思わなかったよ」

「それは俺のセリフだけどな……って言うか並んでる時に声をかけてくれれば良かっただろ?」

「気が付いてたんだけどね、なんだか楽しそうにしてたから話しかけづらくてさ」


 あははと笑いながら頭の後ろに手をやる真央に、優花はそんなに楽しそうにしてたかなと首を傾げた。

 少し前を走る凛香達の車両に視線を飛ばすと、こちらに振り返ったりはしていないみたいだった。まだ真央達のことは気がついていないらしい。


 さて……どうするかな……。


 知り合いと会った以上、一緒に回ろうと誘うのが筋ってものだと思うが、竜二と淀をくっつけようという目的ができた以上、真央の存在はその障害となりうる。


 ここは真央には悪いが、別々で回らせてもらおうと思い口を開こうとした瞬間、楓がぽんと手を打った。


「そうだ! せっかくですし、灰島先輩達のグループと一緒に回りませんか?  その方がきっと楽しいですよ?」


 優花の邪魔でもするように、楓が真央にそう言った。


「え? でもお邪魔なんじゃないかな?」


 ちらっと見てきた真央に、優花は手を横に振って否定するしかなかった。


「いやいや、邪魔とかじゃないって。元々真央は誘ってただろ?」


 話の流れ的に断れるはずもなくそう言うと、真央は「ほんと!」と嬉しそうに笑っていた。

 

 結局一緒に回ることが決まってしまったわけだが……。

 ちらっと後ろを振り返ると、縦横無尽に空間を駆けるクマの方を全く見ずに優花の方を見ていた楓と目が合った。


「灰島先輩、どうかしました?」

「いや、なんでもないよ」


 楓が優花の目論見とは真逆の提案をしたのは、果たして偶然だろうか?

 こっちのグループで楓の知り合いそうなのは、竜二と淀だが、竜二ははっきりと苦手だと言っていたし、楓自身も敵視していた。淀はどうかわからないが、二人はあまり相性が良さそうには思えない。


 わざわざ全く仲が良くない人達と共に回ろうなんて普通言いだすだろうか? 真央に配慮した可能性はあるものの、楓はあまり他人を気遣うタイプには見えないのでそれもないだろう。


 ……何か狙いがあるんじゃないのか?


 優花がその思考に至ったところで、ベアーハントはいつの間にか終わっていた。


 アトラクションの降り口で、優花と真央、そして楓は凛香達と合流した。


「あら? 真央さん? どうしてここにいるんですの?」

「凛香さん。こんにちは! 今日は楓ちゃんと遊ぶ約束をしてたんですけど、まさか凛香さん達もディスミーパークに来てるとは思いませんでした!」

「楓ちゃん? そちらの方は真央さんの……お友達なのかしら?」


 お友達と言う時の凛香の顔が怖かった。

 自分を差し置いて真央と仲良くなった人がいることが許せないのだろう。


「はい! 白桜学院の一年生の八手楓ちゃんです!」

「ご紹介にあずかりました! 八手楓です! 虚空院凛香先輩ですよね! よろしくお願いします!」


 元気に挨拶する楓に凛香は少し引き気味だった。


「は、はあ……」

「楓ちゃんは元気な子なんです。すいません……」


 まるで楓の保護者のように謝る真央が少し可笑しかった。

 結局そのまま真央と楓と一緒に近くの昼食へ。


 四人掛けのテーブルを二つに分けることになり、適当に座ろうとすると楓がいきなり手を上げた。


「はいはい! せっかくなのでくじが良いと思います!」

「ええ……適当で良いんじゃないのか?」

「灰島先輩はエンターテインメント精神が足りませんねえ……こういうのは何でも楽しくやらないと!」

「そういうもんか?」


 楓が出したスマホアプリでくじをした結果、真央と竜二と凛香の三人と、優花と花恋に淀と楓の四人の二グループになってしまった。


 うん……これはまずいだろ……。

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