乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その二百八十二
凜香さんへのプレゼントを含めて四つ分購入すると、リリーシャさんは大きなあくびを見せた。
「ふあーあ……。そろそろ眠くなってきたね。今日はもう店じまいにするよ。ゆう坊も帰りな」
「あっ、はい。ええと、何かお手伝いすることとかありますか?」
ここに来た目的は達成したものの、色々としてもらったのに、このままはいさよならじゃさすがに申し訳なさすぎるので何か手伝うことはないかと聞いてみると、リリーシャさんは大きい目をぱちくりとさせたあと、優しく笑った。
「……それじゃあ店から出た後、札を裏返しておいておくれ。……また来なゆう坊」
「わかりました。ありがとうございました。また来ますね」
気難しい人かもなんて最初は思ったけれど、全然そんなことはなかったなと思いつつ、お礼を言って店を出て言われた通りに『OPEN』と書かれた札を裏返して『CLOSED』にすると、翡翠と竜二、そして四五郎さんが律儀に店の外で待っていた。
「ど、同士。大丈夫だったか?」
「すんません兄貴、戻っては来たんすけど、どうしても入る勇気が……」
「ははは、僕は追い出されちゃったから入るに入れなかったけどね」
直接追い出された四五郎さんはともかく、翡翠と竜二は店には入ってこれないまでも、一旦逃げてから優花を心配して戻ってきてくれたらしい。
「リリーシャさんは別に怒ってなかったけど、今度来た時謝っておいた方が良いかもな」
「リリーシャさんって、あの魔女のばあさんそんな名前なんすね……」
「こ、今度来た時って……同士、また来るのか?」
「また来ますって言ったしな。大丈夫、話してみれば怖い人じゃないよ」
今度来た時こそ、ちゃんと二人を紹介したいところだ。
「それじゃあ帰ろうか。同士くん。竜二くんにはもう言ったんだけど、良ければ今日はうちに来てご飯でもどうかな?」
「翡翠の家かあ……」
「兄貴。ぜひ行きましょう!」
苦手な翡翠のお母さんの真潮さんも居るし、四五郎さんは四五郎さんで何か裏がありそうな雰囲気もするので、正直遠慮したいところだったけれど、何故かノリノリの竜二に流されて結局その日は翡翠の家で晩御飯を食べ……そのまま二人共今日は翡翠の家に泊まることになってしまった。
「それじゃあ、同士くん。次この場面行くよ!」
「いや、もう眠いんですけど……」
「何を言っているんだい同士くん! まだ稽古始めて3時間しか経ってないよ! そんなんじゃ良い役者に慣れないよ!」
「いや、役者になりたいなんて一言も言ってないんですけど……」
そして結局、四五郎さんに促されるまま始まった謎の演技レッスンは、夜が明けるまで続いたのだった。
*****
翡翠の家に泊まり夜通しレッスンを受け、気が付けば朝。
窓から刺す朝日のまぶしさに手で日を遮ると、竜二と翡翠が欠伸をしながら起きた。
「おはようございます兄貴。……目やばいっすよ?」
「おはよう同士。……って、本当に目が怖いぞ同士!」
「ああ、おはよう二人共。まあ、寝てないからな……」
まあ徹夜したことぐらいはあるけれど、さすがにハードなレッスンを夜通し受けたのは生まれて初めて。目が血走ったり、クマがはっきり浮かんでしまうのも仕方がない。……本当に疲れた。
「結局俺様達が寝た後もずっとやってたのか?」
「まあな……」
優花が四五郎からレッスンを受けている間、それを面白がってか、心配してか翡翠と竜二は二人共部屋の隅で見学していた。たまに練習相手として二人に協力してもらったりしていたのだが、レッスンが24時を超えて気が付けば二人は部屋の隅のマットで寝ていた。一応軽く毛布だけかけておいて放置したが、二人共風邪はひかなかったらしい。
「ふう……まあこんなところかな! さすがは僕が見込んだ同士くん! これならすぐに『例のあれ』を習得できるはずだよ」
「例のあれ? ってなんすか兄貴?」
もったいぶった言い方をする四五郎の言葉に反応して竜二がいぶかしげな顔をして優花の方を見たが、優花はちょうど頭がくらっときていて聞いてなかった。
「……ん? 悪い、何か言ったか竜二? 一瞬意識が……」
めちゃくちゃ疲れたし、さすがに眠すぎて今意識が飛びかけた。このままだと危ないのでシャワーでも借りて眠気覚ましをした方が良さそうだ。
「い、いや、なんでもないっす兄貴。それよりも少し寝た方が……」
「うーん……。四五郎さんが車で学校まで送ってくれるって言ってたけど、今からだと大して寝れないからなあ……」
それよりも汗も結構かいたのでシャワーを借りて、みんなで朝食を取り四五郎さんに車で送ってもらって白桜学院へ。
ちなみに、ささっとみんなの分の朝食を作ったのは竜二。四五郎さんと翡翠とは違い、真潮さんは朝は弱いらしい。正直かなり苦手なので、真潮さんに会わずに済んでほっとしてしまった。




