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乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい   その二百八十一

「まあいいさ。それよりも、話を戻すよ。勉強を教えた側へのお礼の品だったね……それじゃあ」


 ロッキングチェアから立ち上がり、コツコツと再び杖をついてリリーシャさんが向かったのは、店の奥の暗がり。


「ゆう坊。あんたもついてきな」

「わかりました!」


 慌ててリリーシャさんの後をついていくと、リリーシャさんが杖で器用にぱちりと電気をつけ、周囲が明るくなった。


「おー……」


 電灯の明かりが取り去った暗闇に現れたのは、水晶にタロットカード、ルーンの刻まれたルーンストーンに星座表といった占いグッズの数々。値札はちゃんとついている所を見ると、ちゃんと売り物ではあるのだろう。


 こんなに見た目は魔女の家っぽいのに明かりは電灯なんだというツッコミを忘れてしまうぐらいにはいきなりがらっと占いの館になった雰囲気に驚いていると、リリーシャさんはふんっと鼻を鳴らした。


「全部あの子の趣味で置いてるもんさ。良い機会だからあんたに売りつけてやろうと思ってね」

「な、なるほど……」


 試しに手近にあったタロットカードの値札を手に取って見てみると、0が五個仲良く並んでいた。


 ……いくらなんでも、さすがにこの金額は無理だ。


「あの、お手柔らかに……」

「ふん、安心しな。ガキの小遣いでも買えるものにはしてやるよ」

「すみません……」


 内心ほっとしながら、リリーシャさんが結局何を選ぶのかとリリーシャさんの方を見ていると、リリーシャさんの杖が止まりゆっくりと手が伸びた。


「まあ、プレゼントってんならこれだろうね」


 リリーシャさんが手に取ったのは、色とりどりの石……たぶん、パワーストーンが付いているペンダントの入った透明なケース。


「ほら、好きに選びな」


 ずいっと押し付けられるようにしてケースを渡されたものの、さすがにいきなり過ぎて選べない。


 色以外の判断材料が欲しいが、そもそもこれって全部同じ値段なのかという当然の疑問が先に湧いてきた。


「ええと、ちなみにお値段は……」


 ペンダントに付いたパワーストーンは小ぶりなものが多いけれど、実はめちゃくちゃ高い可能性は全然ある。

 物によってはかなりするんじゃないかと思い、びくびくしながら聞くと……。 


「ふぇっ、ふぇっ、ふぇっ、一個五十万だよ!」

「ご、ごじゅっ……!」


 ペンダント一個五十万。そして、このケースには十個以上入っているので、合計で五百万円以上。


 凜香さんの家で高い物を扱うのに慣れてなければ、その場で取り落としていてもおかしくない衝撃が走り、優花はゆっくりとケースを元に戻そうとすると……またリリーシャさんに笑われた。


「ふぇっ、ふぇっ、ふぇっ! 嘘に決まってるだろう? 一個五百円でいいよ。そんぐらいは持ってるだろう?」

「五百円? いや、さすがにもっとするような……」


 当然目利きなんてできないけれど、いくら何でも五百円は安すぎるのはわかる。


 本当の値段はいくらなんだろうとこのケースが元々あった場所に置いてある値札の方を見ようとした瞬間、リリーシャさんが値札をくしゃっと潰してしまった。


「ふんっ。どうせ店の隅でほこりをかぶってるんだ。誰にも売れないよりはましさ、ほらさっさと選びな」


 さすがに五十万円はしないとしても、それなりにはしそうだけれど、本当に良いんだろうか?


「さっさとしな。あたしの腰が悲鳴を上げないうちにね」

「あっ、はい。すみません」


 リリーシャさんの有無を言わさぬ雰囲気に無理やり納得して、パワーストーンを選ぶ。必要なのは勉強会で勉強を教えてくれた側である深雪と竜二と真央の三つ分。結局色以外の判断材料はないので、それぞれ水色、オレンジ、半透明の色を選んだところで、


「あっ、そうだ。もう一個追加で買っても良いですか?」


 勉強会とテストの件で怒らせてしまったままの凜香さんにお詫びの品を買っておくのは良いかもしれない。

 ケースに入った淡いピンク色のパワーストーンを見た瞬間に浮かんだ案は、我ながら名案だ。


「……ふぇっ、ふぇっ、ふぇっ」


 また優花の心が読めたらしく、リリーシャさんは優花の顔をまじまじと見た後愉快そうに笑った。


「気になる女……それもケンカ中の相手へのプレゼントかい? 良い心がけだね。じいさんもケンカした後は機嫌を取ろうとしてよくプレゼントをくれたもんさ」

「な、なんでわかったんですか?」


 さすがに凜香さんとのことは恥ずかしいので何も言っていないのに、どうして渡す相手がケンカ中の女の子であることまでわかったんだろうか?


 もしかして実は本当に魔女で、魔法で心を読んでたりして……。


「ふぇっ、ふぇっ、ふぇっ。もちろん魔法だよ……って言いたいところだけどね。相手をよく観察して、考えればわかることさね」

「観察して考えるか……」


 つまり、リリーシャさんの読心術は、優花の表情や言動から心の内を察して答えを導き出していただけということだろうか。


「……ピンクのパワーストーンを選んだってことは相手は女の子である可能性が高いとかそんな感じですか?」

「まあそんな感じだね。ついでにケンカしたのがわかったのは、あんたがずっと冴えない顔をしてるからさ。男がこんな顔をするときは、誰かとケンカした時って決まってるのさ。そら、二つを合わせて考えてみれば、あんたの考え何て見えてくるだろう?」

「な、なるほど……」


 こうして種明かしされてみればこのリリーシャさんの読心術は、以前めいさんに習った嘘見破り術に近いかもしれない。

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