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乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい   その二百八十

 どう反応すれば良いのか少し悩む。同意すれば良いのか、否定すれば良いのか、それともいつも通り愛想笑いでごまかすか……。 


「それで? あんた達は、何をしにこの店に来たんだい?」


 そして悩んでいる内に先に口を開いたのはリリーシャさんだった。リリーシャさんは割とせっかちななのか、話をどんどん自分で進めてくるタイプらしい。


 優花には悩む時間も与えてはくれず、すぐに本題に入ってきた。 


「ええと、まあ一言で言うなら、お礼の品を買いに来たって感じでしょうか?」

「お礼の品ぁ?」


 さすがのリリーシャさんでも予想できなかったらしい。一度一際大きく目を見開いたかと思うと、すぐに鼻を鳴らした。


「ふんっ、あたしの店をコンビニか何かかと思っているのかい? あたしの店にはガキ共のおもちゃは売ってないよ」

「あはは……」


 それはそうだろう。実際、よくわからないものばかりしかないこのお店で何を買えばお礼の品になるのか今でもわからない。


 そして、リリーシャさんがコンビニと口にしたことで、リリーシャさんもコンビニに行くのかなという割とどうでも良いことも思ったけれど、さすがのリリーシャさんもそこまで優花が考えていることはわからなかったらしく反応はなかった。


「誰の紹介だい? ……いや、やっぱり言わなくて良い。その制服を着てるってことは淀だろう?」

「そうですけど。やっぱり知り合いなんですか?」


 今この場には優花しか居ないが、四五郎さんを除けば優花達は全員白桜学院の制服を着ていた。

 それを見ただけで淀と優花達が知り合いだと思うということは、やっぱりリリーシャさんはこのお店を紹介した淀と元々知り合いだったのだろう。淀が白桜学院に通っていると知っているくらいには。


「ふんっ。淀は孫だよ孫」


 再び鼻を鳴らしながらだったけれど、意外にもあっさりと二人の関係は教えてもらえた。


「ああ、そういう……」


 つまり、淀は自分のおばあちゃんのお店を紹介したってことらしい。


 となると、優花達に自分のおばあちゃんのお店で何かを買ってもらいたかったって感じなんだろうか? だったら、買うもの自体の指定が無かったことにも一応の納得はできる。


 そして、占い師の孫に魔女のおばあちゃんとなると、淀のお母さんの職業が気になるところだけれど……。


「あたしのバカ娘はつまらない凡人だよ。あたしみたいに魔法も使えなければ、あの子みたいに占いの才能すらありゃしない。今じゃ普通のおばさんさ」


 また心を読まれたとしか思えない感じで、答えが返ってきた。


 本当に魔法が使えたりして……。いやまあ、この世界はゲームと考えればない話でも……いや、ないか。たぶん偶然だ、偶然。


「なんだ、そうなんですね。てっきりお母さんの方は超能力者とかかと……」

「ふぇっ、ふぇっ、ふぇっ! 超能力者ね。良いじゃないか! ふぇっ、ふぇっ、ふぇっ!」


 別にボケたわけじゃないけれど、超能力者というフレーズがリリーシャさんの笑いのツボに入ったらしい。


 しばらく大声で笑っていたリリーシャさんが、愉快そうな顔で椅子から立ち上がり、杖をつきながらゆっくりと近くの棚に移動し、棚からコップを取り出したかと思うと下の棚からは飲み物を取り出してコップに注いだ。


「飲みな、あたしを笑わせたご褒美だよ」

「あ、すみません。ありがとうございます」


 ちょうど少し喉が渇いていたところだったので、ありがたく渡されたコップの飲み物を飲み干すと……。


「ふぇっ、ふぇっ! こんなよくわからないババアに出された飲み物を躊躇なく飲むかい普通? ふぇっ、ふぇっ!」


 また笑われてしまった。


「えっと、美味しかったですけど……」

「ふぇっ、ふぇっ。そういう問題じゃないよ、おバカな子だね。あんたはあたしに似てると思ったけど、訂正するよあんたはじいさんにも似てる。本当に変わった子だよ……」


 少し寂しそうな、どこか懐かしさを感じているような微妙な表情を見せるリリーシャさんを見ればわかる。たぶんリリーシャさんの言う『じいさん』はもうこの世界に生きてはいないのだろう。


 大切な人を失った喪失感が、リリーシャさんにはたしかにあるように感じた。


「あ、あの! それで、お礼の品の件なんですけど、何かオススメってありますか?」


 しんみりとしてしまいそうになった空気に耐えられず優花が強引に本題に戻すと、リリーシャさんは自分の分の飲み物を持って、またコツコツと杖をついてロッキングチェアに戻った。


「まあ、落ち着きな。ゆう坊」

「ゆ、ゆう坊……」


 兄貴だとか同士だとか、今まで色々な呼ばれ方はしてきたけれど、さすがにゆう坊は初めて呼ばれた。

 まあ、リリーシャさんから見ればたしかにまだ子供程度にしか見えないだろうから、仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。


「まずはあんたの話を聞かせなゆう坊。話はそれからだよ」

「わかりました。えーっと、それじゃあ、どこから話そうかな……」


 リリーシャさんに促され、話したのはテスト勉強の話とそのきっかけになった竜二と淀の話。


 最初はテスト勉強についてだけ話そうと思っていたのだけれど、時々挟まるリリーシャさんの質問に答えていたら、いつの間にか自然と竜二達のことも話してしまっていた。


「そうかい。あの子に恋ね……。ふぇっ、ふぇっ、ふぇっ。結構なことじゃないか」

「あのー……一応竜二には内緒って言われてるんで、淀さんには言わないでもらえると……」

「ふんっ、頼まれたって言ってやらないよ。そういうのはね、他人が口を挟んだってろくなことにはならないんだよ。当人同士が頑張るしかないんだ。ゆう坊、あんたもよく覚えておきな」

「はい。すいません……」


 竜二達のためにと割と色々余計なことをしてしまっている自覚がある優花は素直に謝ったのだが、リリーシャさんは何故か呆れたような顔をしていた。


「そっちじゃないよ。まったく、鈍いところはじいさん似だよあんたは……」


 ささやくような声量だったので上手く聞き取れなかったけれど、まあ呆れられたことには間違いなさそうだった。

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