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乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい   その二百七十九

 入って早々、四五郎さんのつぶやいた感想もわからなくはない。天井から吊るされている無数の鉢植えに植えられた植物、瓶詰めされたよくわからない謎の材料、うず高く積まれた本。外観同様、内装も完全に魔女の家だった。


「値札があるってことは、一応ちゃんとお店なんだな」

「本当だ……」


 翡翠の指摘通り、よく見れば紙で書かれた手書きの値札がそこかしこにあり、ここがお店であることは間違いない。やっぱり淀の地図の目的地はここで合っていたらしい。


「それで、兄貴。何買うんすか?」

「うーん……」


 淀のことだから、何か占い関係の物にはなるだろうと思ってはいたけれど、まさかこんなガチな感じのお店を指定されるとは思っていなかった。これだと、一体何を買って良いのかわからない。


「それに店員も居ねえっすよ」

「本当だな……」


 言われてみれば、優花達が好きに店内を見ているのに未だに店員さんの姿もない。万引きとか警戒しなくても大丈夫なんだろうか?


「ふぇっふぇっふぇっ、そんな心配はいらないよ。あたしの店から何か盗んだら……呪われるからね」


 暗くてわからなかった店の奥、優花の心の中の疑問に答えながら出てきたのは、つばの広い黒い三角帽子に全身を覆う真っ黒のローブ、そして長い杖をつく老婆。

 着ている服には年季が入っており、これがコスプレ等ではないことは一目でわかる。


「で、でたあああああああ!」

「うわあああああああああ!」


 こういうのは意外にダメらしい翡翠と竜二は、 まさに魔女という感じの見た目をした老婆を見た瞬間、絶叫を上げながらダッシュでお店の外に逃げてしまった。


「ふぇっふぇっ、失礼なガキどもだね」


 言葉とは裏腹に愉快そうに笑いながら杖をつき歩いてくる老婆は、もしかしなくてもこのお店の店主だろう。


「はじめまして、素敵なレディ。僕は奥真四五郎と……」

「ふん。何がレディだ。あんたはじいさんと同じで嘘つきの顔をしてるよ。気に入らないから出ていきな」

「あっ、ちょ、痛い!」


 たぶん四五郎さんは初対面の女性皆にこんな感じに挨拶するんだろうけど、割と理不尽な感じで老婆に杖でガンガンつつかれて店の外に追い出されてしまった。


「あのー……ここのお店の店主さんですよね?」


 たぶん気難しい人なのだろう。


 自然に二人になってしまったけれど、なんて声をかければいいかわからず、とりあえずわかりきったことを聞いてみると、ぎろりと大きな目がこちらに向いた。


「ふぇっ、ふぇっ。あたしは魔女だよ。この格好を見ればわかるだろう?」

「まあ、わかりますけど」


 マジハイには出てなかった……よな?


 さすがにこんなに濃いキャラクターだったら忘れるなんてこともないだろう。マジハイには登場していない言うなればこの世界のオリジナルキャラクターか。


 ……いや、キャラと考えちゃうのは失礼か。


 この世界がゲームだと一度結論付けたとはいえ、皆をキャラクターではなく一人の人間として接すると決めたのに、こうして初対面の相手にはまだキャラクターとして考えてしまう悪癖が残っているらしい。 


「あんた今ゲームのことを考えたかい? あたしがゲームのキャラクターにでも似てたかい?」

「うぇっ……」


 考えていたことが当てられて変な声が出た。


 そういえば、店の奥から顔を出した時の言葉も優花の口に出していない疑問に答えながら出てきた。もしかして、魔女的な読心術だろうか?


「ふぇっ、ふぇっ、ふぇっ。そうそう。あたしは魔女だからあんたの心がお見通しなのさ」


 また優花の考えを当て、愉快そうに笑いながら杖をついて老婆が向かったのは店の隅に置かれたロッキングチェア。


 早速座って、ギィ……ギィ……という音を鳴らしながらゆっくり椅子を揺らしたかと思うと、ぎょろっとその大きい目がまたこちらを向いた。


「ふう……何してるんだい。あんたもこっちに座りな」

「え? あっ、はい」


 座れと言われたのだから、どうやら四五郎のように優花を追い出すつもりはないらしい。


 老婆の指示通り、優花が座ったのはロッキングチェアの近くの粗末な椅子。子供用なのか、少々小さくて座り心地は悪い。


「ふぇっ、ふぇっ、ふぇっ。あたしの名前はリリーシャ・フェラン。あんたは?」


 リリーシャ……?


 たしかに格好は立派な西洋の魔女なのだが、老婆の顔はどう見ても日本人だし、日本語の発音もおかしなところはないので、たぶん彼女が名乗っているのは本名ではないのだろう。


 まあ、リリーシャだと自分で名乗ったのだから、リリーシャさんと呼んでも問題はないだろう。


「……灰島ゆうかです。ええと、初めまして」


 リリーシャさんに名前を聞かれ、一瞬、元の世界の名前であり、本当の名前の不藤優花と名乗りそうになったけれど、やめておいた。

 よくよく考えてみれば、この店を指定した淀とリリーシャさんが、知り合いである可能性は高い。名乗った名前が違うとわかれば、淀に変な疑問を持たれてしまうかもしれない。


「ああ、初めましてだね。それで、あんた。素直な心を持ってる割には、ごちゃごちゃ考えるタイプだね。あたしと一緒。あんたはよく苦労するよ……ふぇっ、ふぇっ、ふぇっ」

「ええと……」

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