乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その二十七
小型飛行機が、岩山をぐるぐると回って駆け抜けるというのがビッグ・トルネードの設定で、様々なルートを取りながらぐるぐると回り四分程でアトラクションは終了。
「ふう……全然余裕でしたわね!」
「にははっ! 大丈夫ですよ! これからもっとすごいの行きますから! 最初のこれはウォーミングアップです! ほら! 次行きますよ!」
「……もっとすごいの? ウォーミングアップ? か、花恋さん? 少しお待ちになって?」
花恋の言葉に不安になったのか、凛香が花恋の横に並び、しきりに何か話していた。たぶん、絶叫系は外してくれ的なことを言っているんじゃないだろうか。
「兄貴! 兄貴はどうでした? ビッグ・トルネード始めてだったんでしょう?」
「楽しかった……です……よね?」
少しだけ先を行く花恋と凛香と離れると、竜二が優花の隣に並び、すぐにその隣に淀も並ぶ。
「まあまあだな、これくらいじゃ俺はまだ満足できないかな」
「おっ! 言いますね兄貴! 大丈夫っすよ! まだまだアトラクションはいっぱいありますし!」
いつになくテンションが高い竜二は、自然と笑っていた。ディスミーパークの魔法がそうさせているのかもしれない。
「そうなのか? ちなみに竜二が一番好きなのは?」
「おれはそうっすね……」
色々と好きなアトラクションがあるらしくて迷う竜二をくすっと笑って、淀が答えを教えてくれた。
「りゅうは……ミニマム・ワールド……が大好きです」
「へー、そうなのか? 意外だな。絶叫系じゃなさそうだけど?」
名前のイメージでは子供向けっぽいけど……。
「淀お前! ばかっ! それは言うなって!」
赤い顔になって慌て出した竜二を見て、優花はぴんと来た。
「ああ……竜二はそのミニマム・ワールドが苦手なのか?」
淀は大好きと言っていたが、本当は苦手なのだろうと思って聞いてみると、竜二は認めようとはしなかった。
「いやいや! 全然平気っすよ!」
凛香同様、地味にプライドが高いらしい竜二がそう言ったので、優香は前を歩く花恋達に合流し、予定に無かったミニマムワールドを入れてもらうことにした。
「えー……あれ、わたし的にはあんまりなんだけど……」
「竜二がどうしてもって言うからさ、頼むよ」
「うーん……わかった! それじゃあ調整するね!」
よしよし、作戦成功だ。
満足げに頷いていると、竜二がさっきまでの凛香のように青い顔になっていた。
いや、だからどれだけ苦手なんだよ……。
「時には過去のトラウマを乗り越えるのも、男には必要なんだよ」
ぽんぽんと竜二の肩を叩きながら適当なことを言うと、竜二は感動したように目を潤ませた。
「兄貴! 兄貴がおれのことをそこまで考えてくれてたなんて!」
いや、別に考えてないけど……。
「うっす! わかったっす! おれはあの恐怖のアトラクションを乗り越えてみせるっす!」
「あー……まあ、頑張れ」
竜二がやる気に満ちているが、優花の目論見はもちろん竜二にトラウマを克服させることなんかじゃない。竜二を弱らせることだ。
普段隙も弱みも見せない竜二が、珍しく見せる弱った姿に、淀は淀できゅんと来るはず。そして弱った竜二に淀が優しくすればどうなるか……答えは明白だろう。
我ながら策士すぎて自分が怖い。
「せんぱい……顔が……怖いです……」
「……悪い」
淀にびびられてしまった顔をいつもの? 顔に戻し、とりあえず次のアトラクションへ。
ミニマムワールドは立地的に少し遠いということで後回しにして、次に優花達が乗ったのは、ビッグ・トルネード同様ディスミーパーク西地区にあるアトラクション、アマゾンツアー。
秘境アマゾンを船で巡るという設定のアトラクションで、アマゾンに住む謎の部族の攻撃にあったり、動物達に襲われたりする様を案内人のお姉さんが面白おかしく解説してくれて、なかなかに楽しめた。
「いやあ、面白かったですね凛香さん! ……凛香さん? どうかしました?」
「い、いえっ大丈夫ですわ……」
ずっとお姉さんとお姉さんが指す方を見ていたのでわからなかったが、もしかして今のも凛香は怖かったのだろうか。別に怖いシーンなんてなかったのに。
……本当に可愛い人だな。
思わず微笑んでしまうと、凛香は優花を睨んだ後ふんっと顔を背けてしまった。また機嫌を損ねてしまっただろうか。
十分程度のアマゾンツアーも終わり、次に向かうのはコスモス・シップ。
宇宙船で宇宙空間を旅するという設定のアトラクションで、暗闇を走る屋内系ジェットコースター。アトラクションのある建物はドーム状になっていて、外からはどんな感じなのかまったくわからない。
「にははっ! ここがディスミーパークで一番怖いと評判のアトラクションなんですよ!」
にぱっと笑う花恋が見ているのは凛香。
凛香がジェットコースター系が苦手なのをもう知っただろうに、それでも話を振るのだから、花恋もなかなかに人が悪い。
「そっ、そうなのね……」
凛香はひくひくと頬を引きつらせながらもなんとか微笑んでいた。
「まあ大丈夫なんじゃないですか? スピードとかもそれほど出ないんだろ?」
「うん! それほどスピードは出ないね」
「ほら、大丈夫ですよ凛香さん。そんなにびびらなくても」
「び、びび、びびってなどいませんわ! 見くびらないでくださる!」
うん、言葉選びを間違えた。
ぷりぷり怒った凛香を先頭にコスモス・シップへ。
「お兄ちゃんは凛香お姉ちゃんの隣ね! 竜二先輩と淀先輩はこっちで!」
勝手に優花達の乗る席を決めると、花恋はまた一人で知らない人の隣に乗ってしまった。
本当にダブルデートだととらえているらしい。
次は代わってやろうと密かに決めつつ、花恋の指示通り凛香の隣に座る。
「なかなか暗いのね……」
「みたいですね。宇宙を旅するって設定らしいですし」
勢い込んで席に座った癖に、凛香はすぐに不安そうな顔できょろきょろとし始めた。
「大丈夫ですって。ほら、なんなら手を繋いでても良いですよ?」
あははと笑いながら冗談で言うと、凛香がすっと手を伸ばしてきて、優花の手をつかんだ。
は? え? 本当に繋ぐの?
凛香が本当に手を繋いできたので、困惑していると、凛香はぎゅっと優花の手を握った。
「途中で離したら許しませんわよ!」
「は、はい……」
凛香は優花と手を繋いでも気にしていない……と言うより、アトラクションの方に気を取られていて、優花と手を繋いでいることを全く意識していないみたいだった。
それからは安全バーが降りて、すぐに出発。暗い中、わずかな光を頼りに進んでいく宇宙船……みたいな感じなのだが、正直そんなことはもうどうでも良かった。
手が……手がああああ!
凛香と手を繋いでいることを意識しすぎて、もはやアトラクションどころじゃなかった。
何度か旋回したり、短い坂を上下したり、最後はスピードが徐々に上がったあと急ブレーキ。何かあるたびに凛香がぎゅっと手を強く握り込んでくることもあって、優花はまったくアトラクションに集中できなかった。
 




