乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい 2023バレンタイン スペシャルショートストーリー 『チョコ・バトルロワイヤル』 前編
本編には無関係、時系列無視です!
「ゆうかさん? ……ゆうかさん?」
誰かが名前を呼ぶ声に目を覚ます。
「……凜香さん?」
いつの間にか眠っていたらしい。目を開けると、心配そうに優花の顔を覗き込んでいる凜香の姿があった。
「立ったまま寝るなんて器用なことしますわね」
「あっ、えっと。すみませ……ん?」
いつも通り頬を搔こうとして、手に何か持っていることに気が付いた。
丁寧に包装されたそれは、どう見てもチョコ……いや、バレンタインチョコ。
なんでこんなものを手に持っているんだろう? そんな疑問が浮かんだ優花の手から凛香がひょいとチョコを取り上げた。
「あら、わざわざわたくしを呼び出したのは、このチョコを渡すためだったんですわね!」
「えーっと……」
たぶんそれで間違ってはいないのだろう。包装している紙の柄は、明らかに優花の趣味のもの。
優花が自分で手作りしたチョコを、バレンタイン当日凜香に渡そうとしていた。……状況を分析するとそうなるはずなのに、チョコを作った記憶が全くないのがおかしい。
もしかして……。
「ゆうかさんがどうしてもと言うのなら、もらって差し上げますわ!」
「あー……はい。どうぞ」
上機嫌そうに笑みを浮かべる凜香さんの顔を見て、全てがどうでも良くなった優花が考えるのをやめると……。
「ちょっと待った! 同士のチョコは渡さないぜ?」
さっそく封を解こうとした凛香の手からチョコを取ったのは翡翠。
「ちょっと、返しなさい! それはわたくしの物ですわ!」
取り返そうと手を伸ばした凛香の手を華麗なバックステップで翡翠が躱し……。
「ふっ、俺様からチョコを取れるやつなんているわけが……」
「兄貴のチョコは誰にも渡さねえ!」
いつの間にか翡翠の背後を取っていた竜二が、翡翠の手からチョコを高速で奪い取ったが……。
「予測通りの動きだ」
その手からさらにチョコを奪い取ったのは深雪。
「もらったー! お兄ちゃんのチョコはわたしの物だー!」
さらにさらにその手からチョコを取ったのは花恋。
「ご、ごめんね花恋ちゃん! 私もゆうかくんのチョコが欲しいから……!」
そして、最後に花恋からチョコを取ったのは真央だった。
「いや、みんないったい何して……」
どうしてみんな優花のチョコを取り合っているのか。
急に始まったチョコ争奪戦に優花が困惑するしかできないでいると……。
「ふっ、真央さん。あなたには渡しませんわ!」
高速で放たれた凛香の手刀が真央の手からチョコを弾き飛ばし……宙を舞ったチョコが優花の手に戻ってきた。
「くっ、こうなったら……あれを出すしかないぜ!」
「だったらおれも……!」
「自分も奥の手を出そう……!」
「それならわたしだって……!」
自然と優花を囲んで膠着状態になったところ、翡翠が、竜二が、深雪が、そして花恋がどこからともなく取り出したのは……どぎついピンクの色をした巨大なハンマー。
「……なにそれ?」
明らかに普通じゃないハンマーのいきなりの登場に優花が頬を引きつらせると……。
「ふふん! 良いでしょう! 誰が最強か思い知らせてさしあげますわ!」
「私だって、絶対負けないよ!」
凛香と真央までピンクの巨大なハンマーを手にし始めて……。
『チョコ・バトルロワイヤルだー!』
「ちょっ、みんな落ち着いて!」
悲鳴に近い叫び声を上げながら身を限界まで低くすると同時、襲い掛かってきた無数のハンマーのすべてを回避できたのは奇跡でしかない。
「ぐはっ!」
最初の激突でハンマーに当たったのは翡翠。
ポンという気の抜けるような音と共に、ハンマーが当たった翡翠は――――チョコになった。
「こっわ……!」
読んでいただきありがとうございます。
短編で何か書きたくなり、お試しで本編の時系列無視で季節のイベントを書いてみました。気が向いたらまたいつかやるかもです。
明日の17時に残りを上げる予定。ハッピーバレンタイン!




