乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その二百七十三
明かすつもりがなかった自分の成績を見られ優花が動揺を見せると、凜香さんは目は大きく開いたまま、口元だけで笑った。
「ふふ……ふふふふ……」
怪しく笑う凜香さんを見て膨らんできた嫌な予感に優花が頬を引きつらせると、凜香さんは笑うのをやめてすっと目を細めた。
「へー……そう……わたくしがこんなに悩んでいたのに……あなたは随分とテストに集中できたみたいですわね?」
まずい! やっぱり地雷踏んでた!
「いや、凜香さん。ち、違うんですよ。今回はその……たまたまというか」
自身のうかつを呪い、弁明しようとしてももう遅い。
「あら、良いんですのよ? 別にわたくしに勝ったことを誇っても? わたくしは何とも思っていませんし、気にしていませんから?」
いや、どう見てもすごく気にしてますよねえ!
こんなの何とも思っていないと言う割には、全然そんな感じには見えない。
勉強会に誘えなかったやらかしと、凜香さん自身が自分の成績にショックを受けている状態で総合成績で優花が勝っていたことがばれてしまったというこの二連続のやらかしは……致命的だった。
「……別に……ゆうかさんがわたくしのことを何とも思ってないと……いえ、どうでも良いと思っているのがこれで証明されただけですわ!」
負けた悔しさからか目の端に若干の涙を浮かべる凜香さんにそう言われた優花は……初めて凜香さんにカチンと来てしまった。
「いや、なんでそうなるんですか!」
凜香さんに幸せになってもらいたい。その思いを胸にこの世界での日々を頑張ってきた優花にとって、例え冗談でも言われたくない言葉。それを本人に言われた優花は、思わず凜香さん相手に声を荒げた……いや、荒げてしまった。
「っ!」
初めて向けられる優花の怒気に一瞬動揺を見せた凜香さんは、優花を一度強く睨んだ後、何も言わずに教室を出て行ってしまった。
……また、やらかしちゃったな。
凜香さんが教室を出ていってしまってすぐに優花の頭も冷え、残ったのは後悔と自己嫌悪。これで連続三回のやらかし。これはもうどうあっても許してはもらえないだろうし、今度こそ確実に嫌われた。
「同士……良かったのか?」
「良くはないけど……」
今すぐ追いかけても凜香さんには追い付けないだろうし、たぶん謝罪も受け入れてはもらえないだろう。
凜香さんとの初めてのケンカ、最近常に燃え上がって困る凜香さんに対する想いも……今だけは優花の後悔を深くするだけだった。
*****
「それで、兄貴。そのまま虚空院の姉御には謝ってないんすか?」
「謝ってない……」
凜香さんとの初めてのケンカの傷心も癒えないまま、優花は竜二と翡翠を連れて駅近くのショッピングセンターに来ていた。
「えーっと……それは大丈夫なんすか?」
「大丈夫じゃないけど……」
目的は竜二と真央、そして深雪という勉強会で勉強を教える側だった三人へのお礼の品を買うこと。
当然ながら買い物なんて気分ではないけれど、明日からは文化祭までずっと忙しくなりそうなのでお礼の品を買うなら今日ぐらいしかないので仕方がない。
「それよりも竜二。結局黒岩さんは何が良いって言ってたんだ?」
今日この場に居ない淀にはあらかじめ淀が選んだものを優花と翡翠でお金を出し合って買うという話は通してある。
何をプレゼントするのかはちょっと考えさせてほしいと言っていた黒岩さんが結局何を選んだのかは、竜二づてに聞くことになっていた。
「えっと、何買うかはわかんないっすけど、代わりにこれを兄貴に渡すように言われたっす」
全然納得はいっていなさそうな顔で竜二がごそごそと制服のポケットをあさり取り出したのは、たまに授業中なんかに女子同士でやり取りしているのを見る丁寧に折られた手紙だった。
「女子ってこういうの好きだよな」




