乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その二百七十
生まれてこの方上位の成績なんてほとんど取ったことはないけれど、今なら学年1位……は無理でも案外あっさりと上位には食い込めそうな気もしてくる。
「それは良かったな同士。前の期末は赤点取ってたからな」
「……ははは」
利き腕が骨折して使えなかった……という言い訳は一応あるけれど、前回の期末は赤点を取りまくった優花がここまで勉強ができるようになったのは皆の教え方が上手かったのだと思う。
特に真央と深雪は教え方も丁寧で、何がわからないのかをよく理解してくれている感じだったので、すんなりと頭に入ってきた。
「勉強教えてくれてる竜二と真央と深雪先輩には何かお礼をした方が良いかもな……」
「あー……それは俺様も考えていたぜ。せっかくだから黒岩ちゃんに何か選んでもらって俺様達で買ってくるっていうのはどうだ?」
……なるほど。
たしかにそれなら黒岩さんにお金を出させることなく三人からのプレゼントということになる。翡翠にしては中々にスマートな解決方法だ。
「やるな……翡翠」
「ははは! そうだろう同士! 俺様だってたまにはやるんだよ!」
そうやって優花が褒めて翡翠が調子に乗って高笑いしたのが……良くなかったのかもしれない。
「あら、何か楽しそうに話してますわね?」
「り、凜香さん……?」
急に聞こえてきた凜香さんの声の方向は……後ろ。
凜香さんが好きだと自覚してから、あまりにも心臓に負荷がかかりすぎて死にそうになることから、自分から話しかけることなんてできず、視線を向けることもできず、たまに話しかけられてもすぐに切り上げて逃げていたのだけれど……今回の凜香さんの位置は優花の背後。
椅子を引くことができなくなっていて……逃げられない!
凜香さんが近くに居ること、凜香さんの声を聴いたことで心臓がまた甘く高鳴りそうになったけれど、凜香さんの声の調子が明らかに怒っている時のそれだと瞬時に察知し、心臓の高鳴りは収まってしまっていた。
おかげで久しぶりに逃げることなく凜香さんと話せる状態になったわけだけど……。
ゆっくりと振り向くと、凜香さんはにっこりと笑っていたけれど……今は逆にその笑みが怖い。
「盗み聞きをするつもりはなかったのですけれどね? あなた達があまりにも大きな声で話しているものだから、聞こえてしまったのですけれど……勉強会ってなんのことかしら?」
「えーっと……それはですね……」
背筋が凍るとはまさに今の感じを言うのだろう。いまさらながらやらかしたと気が付いたけれど、既に後の祭り。
凜香さんの言葉から感じるのは……かつてないほどの怒り。
「まさかとは思いますけど、わたくしをのけ者にして勉強会をしていたわけでは……ありませんわよね?」
「いや、のけ者とかじゃなくてですね……」
やっぱり凜香さん以外のメンバーで勉強会をしていたのが良くなかったらしい。
たしかに真央と翡翠が参加を希望した時点で凜香さんも誘った方が良かったのだろう。
まあ、その場合凜香さんと近くに居ることすら困難な優花が勉強会に来れなくなっていたので、仕方ないと言えば仕方ないのだけれど、そんなことまで凜香さんが察してくれるはずもない。
『同士……虚空院を誘ってなかったのか? 俺様はてっきり誘って断られたもんだと思ってたんだが……』
凜香さんの怒りの雰囲気がわかったらしい翡翠が声を潜めて話しかけてきたけれど、今翡翠に返事をしている余裕はないので黙っていてほしい。
「いや、あのですね。違うんですよ」
「あら? 何が違うのかしら? みなさんで勉強会をしていたとさっき話していた気がしますけれど?」




