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乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい   その二百六十七

「そう……ですね。最近少し考えすぎてたかもしれません。ここに連れてきてくれて、ありがとうございます。深雪先輩」


 お礼を言いながら、同時にどうして深雪が自分に言っているようにも聞こえたのかを考えてしまう。


 深雪の迷いと悩み――――そう聞いて優花の脳裏に思い浮かんだのは、無念そうだった体育祭の最後、そしていよいよ準備が始まる来月の文化祭。


 最近……いや、ずっと前から深雪は文化祭の成功だけを望んでいるように見えるのは間違いじゃないだろう。


「灰島……自分はどうしても文化祭を成功させたい」


 優花の確信を裏付けるように、深雪の言葉には文化祭への熱意で満ちていた。


「あの、深雪先輩」


 でも、なんでだろう?


 優花の胸に浮かんだのはシンプルな疑問。


 マジハイでの深雪はたしかに文化祭の成否が攻略に影響を及ぼすほど重要ではあったけれど、今の深雪の熱意はマジハイでの熱量とは比べ物にならないように思える。


 今までも疑問には思っていたけれど、まず間違いなく深雪にとってデリケートな話題。聞くのもためらってしまっていたけれど、ここにこうして連れてきてくれた深雪を信じて優花も一歩踏み込む決意ができた。


「……なんでそこまで文化祭を成功させたいんですか?」

「……」


 本当にシンプルな優花の質問に、答えはしばらく無かった。


 やっぱりダメか……。


 あえてゲーム的に言うのなら、好感度が足りなかったかとあきらめかけた時、深雪がようやく重い口を開いた。


「あれは……自分の七歳の誕生日だったか。当時の自分は姉さんにべったりでな。暇さえあれば姉さんと一緒に過ごしてたんだが……」


 姉さんというのは、もしかしなくても鬼島奈央先生のことだろう。深雪のことを『みーくん』なんて呼んでいることから昔から相当仲が良かったんだとは思っていたけれど、そこまでだったのかと少し驚く。


「その日は白桜学院の高等部の文化祭でな。姉さんは文化祭実行委員長でしばらく忙しくて遊んでくれなかったんだが、当日は文化祭に連れてきてくれたんだ」


 深雪の口から語られたのは、いかにその年の白桜学院の文化祭がすごかったのか。未だに色あせることがないというその情景を事細かに語る深雪の表情は……とても楽しそうだった。


「本当に楽しかったよ。そして、実行委員長としてこんな素晴らしい文化祭を作り上げた姉さんを誇らしく思ってな。それで帰る段階になって自分は姉さんに言ったんだ『自分もいつかこんなすごい文化祭を作ってみせる』とな」


 ……なるほど。


 つまり、その当時の約束を果たすために深雪はこんなに熱意を持っているのかと納得した優花だったが、深雪の話には続きがあった。


「だが……ダメだった」


 それまでの楽しそうだった様子は息をひそめ、代わりに深雪の表情に現れたのは……あきらめ?


 ちょうど落ちかけている日が雲で隠れ、周囲がぐっと暗くなったのもまるで深雪の心の内を表しているみたいだった。


「去年と一昨年……自分は文化祭実行委員長をやっているんだが……」


 よほど言いづらいのか、深雪はそこで一度言葉を切り少しうつむいて瞑目した後、続きを口にした。


「頭の固い自分に作り上げることができたのは……とても普通で……とてもとてもありきたりなものだった。自分には無理だったんだよ。あんなに素晴らしい文化祭を作り上げるのは……」


 幼い頃の憧れと、それに手が届かない自分への絶望。

 

 大抵のことは自分一人でできる深雪にとっておそらく初めての挫折。ようやく憧れを実現できると挑んだ二度の文化祭の結果が、深雪に深い傷跡を残したのだろう。


「だが……今年は違う」


 眼鏡を上げながら深雪の目がとらえたのは――――優花だった。

読んでくださってありがとうございます。年内最後の更新です。


今年2022年は、個人的には壱百満天のお嬢様(一般人)の年。その影響で凜香さんをよく書きたくなりましたが……今後の展開のために凜香さんにはあまり出番がありませんでした。2023年は凜香さんの出番も増えると思います。


来年の抱負としては……長く書くというのも目的だったりする今作ですが、来年中には書き上げる……まではいかなくてもせめて終盤に入りたいって感じでしょうか。


それでは皆様、良いお年を!

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