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乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい   その二百六十五

 どうしたもんかなあ……。


 今日は学校が休みということもあり、深雪だけが制服で、優花達は私服。淀だけ気合が入ったファッションになっていて、若干浮いてしまっているのは、たぶん竜二からテスト勉強に誘われて頑張っておしゃれしてきたんだろう。

 淀からしてみれば、気合入れておしゃれしてきたのに、いざふたを開けてみれば竜二にひたすら怒られながら勉強するという泣きたくなるだろう展開。


 ……これは少し竜二に注意をしておいた方が良いかもしれない。


「竜二、ちょっと……」

「え? なんすか兄貴?」


 竜二に怒られ過ぎてしょんぼりとしてしまっている淀を見て、優花はこのままではいけないとちょっと席を立って竜二を部屋の外に連れ出す。


「一応確認なんだけど、竜二。お前は黒岩さんのことが好きってことでいいんだよな? それにしてはさっきから容赦がなさすぎるけど……」

「いや、違うんすよ兄貴。おれは普通に教えてるだけで……」


 照れ隠しで変に力が入って教え方がきつくなっているというわけではやっぱりなかったらしい。それなら問題は竜二の『普通』が普通じゃないことだろう。


「なるほど。それじゃあ竜二、今度は小学生に勉強教えるぐらいに優しく教えてみろ……」

「う、うっす! わかったっす!」


 まったく……世話が焼けるなあ。


 まあ、もう少し言い方とかが優しくなれば、ましにはなるだろう。


「すみません、今戻りまし……」


 ついでなので先に竜二を戻らせ、トイレに行ってから優花も部屋に戻ると……。


「いや。だから、ここは単語の意味が変わるっつってんだろ?」

「うぅ……」

「ついこの間授業で出てきたところだぞ? わかるだろ?」

「ううぅ……」


 ……ダメだこりゃ。


 言い方はたしかに多少……ほんの少しだけ優しく聞こえなくもない程度にはなっているけれど、淀が泣きそうなのは変わってない。


 たぶん竜二は、自分ができるから他人も当たり前にできると思っているタイプで、勉強を教えるのが絶望的に向いてないのだろう。


 勉強作戦は失敗だったかと優花がため息をつきそうになっていると、そこで深雪がすっと立ち上がり竜二と反対側から淀の横に立った。


「難しく考えることはない。ここは教科書のこの構文を入れ替えていると考えればいい」

「あっ……そうか……」


 さすがは深雪。シンプルながら的確なアドバイスをしただけで、淀の顔には理解の色が浮かんでいた。


 ……これはもうこれ以上竜二と淀の関係が悪化しないように先生役を交代した方が賢明だろう。


「すみません。深雪先輩はそのまま黒岩さんをお願いします」

「む? ……わかった。任せておけ」

「あ、兄貴?」

「竜二は俺と一緒に二年の勉強でもするか。どうせいつかするんだし」

「わ、わかったっす!」


 優花の指示に困惑したままの竜二の腕を引っ張り横に座らせ、とりあえず淀にばれないようにテスト勉強用に用意したルーズリーフで筆談することにした。


『なんか不満そうだな?』

『いや、そりゃそうっすよ。兄貴! なんで交代するんすか!』

『見てわかるだろ。黒岩さんずっと泣きそうだったぞ?』

『それは……たしかにそうっすけど……』

『竜二。お前はもう黒岩さんに勉強を教えるのはあきらめろ。逆に仲が悪くなりそうだ』

『うっ……』

『だから、休憩の時とか、終わった後に話しかけろ。とりあえずそれで十分だ』

『わ、わかったっす……』


 竜二がこの調子だと、テスト勉強で一緒に過ごす作戦はあまり効果を見込めないだろう。これは別の手を考えてやった方が良さそうだ。


 やれやれ、本当に世話が焼けるやつだ……。


 そんなことを思いながら、竜二と一緒の勉強が始まり十数分。


「兄貴、そこ代入違うっすよ」

「あ、本当だ。サンキュー」


 ペンが止まる度に飛んでくる竜二のヒントは淀の時と違い適度かつ的確で言い方も普通。これを淀にできれば先生役は交代しなくて良かったのだが、たぶんこれは優花が相手ということで多少は気を遣っているのと、淀が幼馴染だから気安さで自然と口が悪くなってしまうのだろう。


「兄貴、一個前の計算ミスってるっす」

「なるほど、道理でおかしいと……」


 優花がミスをすると竜二がヒントをくれるという流れがその後も数回続き……。


「……って竜二。お前なんで二年の範囲もわかるんだ?」


 なんだか当たり前のように受け入れてしまっていたけれど、自分で言ったように優花が勉強しているのは二年の範囲。さすがに一年の竜二は教科書すらないだろうしわからないだろうと思ったのだが……。


「ああ。姉貴が使ってたやつ今おれが使ってるんすよ」

「あー……」


 たしかに竜二には姉の市乃さんが居るのだから教科書問題は解決だとしても、普通に自分の学年より上の勉強を普段からしているということか……。


「お前は本当に偉いなあ……」

「え? そうっすか?」


 まだ一年生なのにしっかり勉強をしている竜二の意識の高さに素直に感嘆しつつ、結局竜二に勉強を教わる情けない『兄貴』の姿を見せ続け、初日は終了した。

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