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乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい   その二百五十七

 どうして深雪はそこまで文化祭を成功させたいのか。深雪にとって文化祭とは何なのだろうか。


 そんなことを考えながら保健室のある棟を出て、自分のクラスの待機所に戻ると、最後の学年リレーの結果が出ていた。


「同着なんてあるんだな……」


 優花と竜二の勝負の結果は、ビデオ判定の末引き分けということになったらしい。


「惜しかったな同士、もう少しで勝てたな。まあ……あの後輩相手に引き分けなら十分だと俺様は思うぜ」

「いや……翡翠があれだけリード作って同着だったんなら普通に俺の負けだよ。さすがは竜二と言うか……」

「いや! そんなことないっすよ兄貴!」

「うわっ! なんで竜二がここに居るんだよ!」


 戻ってきた優花を出迎えたのは翡翠だけではなく何故か竜二まで居た。


「兄貴が戻ってくるまで待たせてもらいました。それよりもおれは感動したっすよ兄貴!」

「えっ? 何が?」


 あそこまで翡翠にリードを作ってもらって引き分けという微妙な結果。誰がどう見ても個人的な勝負では竜二の勝ちだろう。それなのに何を感動するんだろうか?


「おれは兄貴との勝負のことしか見えてなかった……なのに兄貴はあの状況でも生徒会長がやばいって気付いて走ってったんすよね?」

「いや、たまたま目に入っただけだし……」

「これだけ人数が居て、他の誰も気が付かなかったやばい事態に気付いた兄貴はマジですごいっすよ!」

「いや、だから本当にたまたま……」

「いやあ、やっぱり兄貴はかっけえなあ!」

「話を聞いてくれ……」


 何故かテンション高く褒めちぎってくる竜二を何とか自分のクラスへと帰らせるとようやく閉会式。


 疲れた頭でぼんやりと閉会式の挨拶なんかを聞き流していると、プログラムは優勝旗の授与に移り、赤組と白組双方の代表が同時に登壇し、二人で優勝旗を持っている。


 そう。なんだかんだでとても疲れた体育祭、赤組と白組の勝負の結果は……まさかの引き分け。優花と竜二の同着がなければ生まれていないこの結果だが、意外と皆は満足しているのか盛大な拍手が送られている。


「勝てもしなかったけど、負けもしなかった。結局、これが一番だったのかもしれないな、同士」

「……そうか?」


 たしかに、赤組も白組もどちらもその表情はとても明るく楽し気な人が多い。どちらかが勝っていれば、負けた方は当然気分は良くないわけで、これだけの人が笑っているのはこの中途半端な引き分けという結果だったからだろう。


「ああ。白黒つけない方が良いこともあるってことだぜ」

「……今回は赤と白だけどな」

「ははは、そうだな」


 まあ、正直体育祭の勝敗は勝っても負けても引き分けでも何でも良い。問題なのは……。


 笑う翡翠から視線を外し、優花が恐る恐る凛香さんの表情を確認しようと振り返ると、ちょうどこっちを見ていたのか凛香さんと目が合った。


 ……一瞬驚いたのか見開かれた後にじとりとしたその眼からは、ありありと不満が見て取れる。たぶん凛香さんの応援に応えきれず竜二に勝てなかった優花に怒っているのだろう。


「ははは……すみません……」


 苦笑いと共に前に向き直りため息を吐く。


「はあ……」

「どうした同士? ため息なんて吐いて?」

「いや、何でもない……はあ……」


 借り人競争の時のやらかしと竜二に勝てなかったこと、そして全体の結果の引き分け。凛香さんの機嫌が直るのはいつになるのだろうと思うと自然とまたため息を吐いてしまうのだった。


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