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乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい   その二十五

「……た、たまたま? 早く来てしまっただけですわ! 決して楽しみすぎて、待っていられなくなったわけではありませんから! 勘違いしないでくださる?」


 相変わらず色々とわかりやすい人だ……。

 苦笑しながら「はいはい」と言って、凛香を近くのカフェに促す。一時間も立って待っていたら疲れてしまうからだ。

 集合場所が見えるように外の席に座り、二人で話をしていると、三十分くらいしてから竜二がやってきた。


「兄貴! おはようございます! ……お二人共早いっすね。てっきりおれが一番かと思ったんですが……」


 竜二の格好は、優花と似たカジュアルスタイル。ただ、やっぱりイケメンの竜二の方が似合っているだろう。

 竜二がちゃんと来てくれたことに内心ほっとしながら、優花は竜二のために席を引いた。

 

「竜二か。おはよう。ほら、まだ時間あるし座っとけ」

「うっす。ありがとうございます!」


 竜二と合流した後すぐに、花恋も来た。花恋の服装はデニムのショートパンツに白い柄つきTシャツ。

 一応の兄としてはあまり脚を出してほしくはなかったのだが「ファッションだから」の一言で何も言えなくなってしまった。


「にははっ! お待たせ! そして、おはよう凛香お姉ちゃん!」

「ごきげんよう花恋さん。今日も元気そうで何よりですわ」


 相変わらず羨ましくなるぐらい仲が良い二人だ。


「……兄貴。この子が兄貴の妹さんっすか?」

「そうだけど。あれ? 初対面だっけ?」

「そうっすね。……それじゃあ挨拶してくるっす」


 竜二は席を立つと、凛香と楽しそうに話す花恋の横に立った。


「失礼しますっす。俺は獅道竜二、兄貴の弟分っす。兄貴の妹さんおはようございます!」


 ……竜二、お前はいつから俺の弟分になったとツッコミたかったが、やめておく。まあ普段のやり取りからして弟分というのは結構しっくり来たからだ。


「おお……」


 両手を後ろで組み、頭を下げる礼をする竜二に、花恋は目を丸くしてただ驚いていた。


「兄貴には普段からお世話になってまして。兄貴の妹さんなら、姉御も同然なんで、びしばし使ってくださいっす。よろしくお願いします」

「そ、そうなんだ! よろしくお願いしまーす!」


 嬉しそうに笑う花恋に、優花は嫌な予感がした。

 花恋は容赦なく竜二を荷物持ちにしそうなので、一応注意しておくことにする。


「一応言っとくけど、竜二の方が年上だからな? あんまり無茶なことは言わないようにな?」

「はーい!」


 返事だけは良い花恋だが、信用はできないだろう。

 やれやれと思っていると、最後の参加者がやってきた。


「……すみません……待たせましたか?」


 最後に来たのは黒岩淀。

 淀は全身が黒一色で統一されたコーディネート。スカートの裾が長く歩きづらそうだが、大丈夫だろうか?


「いや、皆今来たところだから! それじゃあ行こうか!」


 全員で、電車に乗りディスミーパークへと出発。優花の疲れすぎる一日が始まった。


*****


「はいこれ! お兄ちゃん!」

「ん? なんだこれ?」


 電車での移動中、優花は花恋に一枚の紙を手渡された。

 同じ紙を全員に配ると、花恋は腰に手を当てた。


「ディスミーパーク初心者諸君! これから花恋軍曹の言うことを復唱するように!」

「えっ? いきなりどうしたんだ?」


 というか花恋軍曹ってなんだ? とツッコミを入れる暇もなく、

 

「私語厳禁!」

「いって!」


 花恋のローキックが優花の脚にヒットした。

 本気で蹴ったわけではないみたいだが、地味に痛い。


「ディスミーパークは戦場! 復唱!」


 鬼軍曹と化した花恋に威圧され、全員が花恋の言う通り復唱を始める。


「「「「ディ、ディスミーパークは戦場」」」」


 全員の復唱を聞いて、花恋はうむと鷹揚に頷いた。


「よろしい! 今日はこの予定表の通りに行動! 隊の統率を乱す行為は禁止! わかった?」

「「「「イェッサー!」」」」


 全員で了解の返事をすると、再び花恋鬼軍曹のローキックが優花を襲った。


「サーじゃない! マムだ!」


 どうして俺だけ蹴られるのか……。

 まあ、凛香や淀を蹴るわけにもいかないだろうし、仕方がないのかもしれないけど……理不尽だ。 


「「「イェス マム!」」」


 痛みに呻いている優花以外のメンバーが慌てて言いなおすと、花恋はようやく鬼軍曹モードを解除してくれた。もう二度と鬼軍曹が現れないことを祈る。


「にははっ! というわけで予定は立ててきたんで! 今日はまったく役に立たないであろうお兄ちゃんに変わって、花恋が皆さんを楽しませてあげましょう!」

「予定なんているのか? 適当にぶらぶら行くんじゃだめなのか?」


 優花が素朴な疑問を口にすると、花恋がまた鬼軍曹になりそうな気配がした。


「兄貴! ディスミーパークは超人気テーマパークなんすよ! 適当に遊んでたら、ろくにアトラクションに乗れずに一日終わっちゃうっすよ!」

「そっ、そうか……」


 花恋鬼軍曹に意外にビビってるらしい竜二が慌ててフォローを入れてきた結果、花恋鬼軍曹は再び現れることはなかった。


「またタピオカのときのように、長い行列に並んで直前で終了は嫌ですわよ……」


 並んでまで買おうとしていたタピオカが直前で売り切れたのがトラウマになっているらしい凛香が、苦い顔でそう言うと、花恋はふふんと胸を張った。


「にははっ! 大丈夫です! ディスミーパーク上級者の花恋にかかれば、アトラクションで二十分以上待つことはないと約束しましょう!」

「「おおっ!」」


 竜二と淀が花恋の言葉を聞いて本気で感嘆していた。二人共ディスミーパークに行ったことがあるのだろう。

 恐らくディスミーパークに行ったことがないであろう凛香は、優花と一緒に「え? 二十分ぐらいは待つ可能性があるの?」という顔をしていたが、花恋が怖かったのか口には出していなかった。


 花恋が立てたという予定表を見てみると、各アトラクションと、待ち時間。昼食のタイミング等、細かく書かれていて、上級者を自称するだけありそうだった。


 適当な話で凛香を退屈させないようにしながら、電車に揺られること数十分、そろそろディスミーパークの最寄り駅に着きそうという頃になって、いきなりくるりと振り向いた花恋が爆弾を投下してきた。


「にははっ! 今日は皆さんのダブルデートを絶対に成功させてみせますからね!」

「……ダブルデート?」


 何の話だ?

 優花と竜二は首を傾げたが、凛香と淀は何故か急にうつむいてしまった。淀の方はわからないが、凛香の顔はうっすらと赤くなっている気がする。


「……この反応……やっぱり気が付いてなかったか」


 花恋から、失望にも似た視線を感じるのは気のせいではないだろう。


「いやいや、別にダブルデートってわけじゃないから。ダブルデートって付き合ってる二組が一緒にデートすることだろ?」


 正論だと思ったのだが、花恋的にはそこはどうでもいいポイントだったらしい。


「……まあそうなんだけどね」


 ふーやれやれと肩をすくめる花恋に軽くイラッとくる。

 しかし、冷静になってみるとたしかに今日のイベントはダブルデートっぽい感じであることも確かだった。


 まあ俺と凛香さんがカップルっていうのは……ないか。


 せいぜい優花は凛香の執事が良いところだろう。ただ、竜二と淀は幼馴染カップルとして成立しているように思える。本日の一番の目的は淀の気分転換だが、二人のカップル成立を応援するという目的を追加するのもありだろうとそこで思いついた。


 すべては凛香さんのためだ。


 真央には悪いが、竜二が淀と付き合ってしまえば、真央は竜二ルートを取れなくなる。そうなれば、凛香のバットエンドルートが一つ潰れたことになるわけだ。


 我ながら良い考えだと、悪者っぽく笑っていると、花恋の爆弾攻撃から復帰した凛香がジト目で見てきていた。


「ゆうかさん……あなた何か変なこと考えてません?」

「……考えてないです」

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