乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その二百五十二
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「はあ……疲れた……」
全体競技のフォークダンスがようやく終わり、長かった体育祭もフィナーレ。
「まさか同士も走るとはな」
「……俺も自分が走るとは思わなかったよ」
最後の競技は全学年リレー。
赤組白組で各学年の代表者チームを作り競い合うリレー。合計6チームが同時に走りその順位で点数を競う競技なので、当然ながら各学年の代表者は足が速い人が選ばれていて、普通に足が速い翡翠はともかく本来であれば優花が走者に選ばれるわけがなかったのだが……。
「いや、今日の兄貴の走りはすごかったっすからね。選ばれて当然っすよ」
気合いを入れるためか白組のハチマキを改めて結び直しながら寄ってきた竜二は何故か上機嫌そう。
「何で当日のタイム測るかな……」
全学年リレーの参加者はあらかじめ決まっていたのだが、何故か当日もタイムを取っており、優花のタイムを見た参加者が辞退したせいで優花が走る羽目になってしまったのだ。
「まあまあ、いいじゃないっすか。これで借り物競争の時のリベンジができるってもんっすよ」
「あぁ……」
普通に一緒にフォークダンスを踊ったりしてたので、借り物競争の勝敗はあんまり気にしてないのかと思ったら、しっかりと気にしてたらしい。
最早完全にやらかしまくって凛香さんの機嫌が最悪に近い状態になった今となっては、正直勝っても負けてもどうでもいい……けれど、竜二の見た目に反した真面目な性格を考えれば、ちゃんと真剣に走った方が良さそうだ。
ちなみに竜二は白組一年生のアンカーで、赤組二年生のアンカーは翡翠ではなく優花。
まあ普通にやったら勝てるわけがないので、勝負は優花にバトンをパスする翡翠がどれだけリードを作って優花にバトンを繋げるかにかかっていると言えるだろう。
「任せとけ同士! 周回遅れにして渡すからな!」
「いや、それは普通に無理だから……」
やる気満々なのは良いけれど、足が速い人と遅い人がチームを組むクラスなんかでやるリレーとは違い、基本的に今回のリレーの参加者は全員足が速い。転んだり、バトンのパスミスをしたりしない限りは周回遅れは無理ってものだろう。
「最後に真央にいいところを見せて終わらないとな!」
「ああ、はいはい……」
どうでもいいけれど、こいつの頭の中には本当に真央しかないんだろうか?
ちなみに男子のリレーの前に女子のリレーがあり、凛香さんと真央、そして楓も参加。
凛香さんが全力で走る姿を見られる機会はもう当分来ないと思われるので、できれば自分のクラスの観客席でしっかりと見たかったと思っていたけれど、参加者用の待機場所は女子のチームの走る姿がより近くで見られるのでむしろ参加者に選ばれてラッキーだったかもしれない。
そんなことを思いながら今か今かと女子の全学年リレーのスタートを待っていると、
『えー……皆さま、少々お待ちください』
何かトラブルでもあったのか、流れたのは競技開始のアナウンスではなかった。
「何か揉めてるみたいっすね」
女子の参加者が集まっている場所で体育祭実行委員が頭を抱えているところを見ると、本当にトラブルがあったらしい。
「ちょっと行ってくるっす」
フットワークが軽い竜二が様子を見に行って楓を捕まえて事情を聴き、すぐに戻ってきた。
「んで? 何だって?」
「ああ、なんか白組二年の女子の代表者が二人直前で辞退したらしいっすね」
「直前でか……」
それは揉めても仕方がない。
全学年リレーは最後の競技ということもあって注目度は高い。代わりをお願いされてすぐにオーケーする人の方が少ないだろう。
「それで参加者を探してたっぽいんすけど……たぶんこのままだと……」
そこで何故か言い淀んだ竜二に優花が首をひねると、そこで全学年リレー参加の女子達に動きがあった。




