乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その二百五十一
今回のフォークダンス、基本的には全員参加だが、異性の手に触れるのがどうしても恥ずかしい人やその他事情がある人は参加しなくても良いことになっている。
そのせいか女子の参加率は男子よりも低く、結果的に人数合わせのために女子の輪には男子が若干混ざっており、男子同士で踊っている悲しい組もあるくらいだ。
踊りながら凛香さんの姿を探して周囲を見回していく中、悪寒がして背後をちらりと振り返るとちょうどそこに凛香さんが居た。
うわ、これは相当機嫌悪いな……。
凛香さんの視線は鋭いを通り越して最早絶対零度の視線でこっちを見ていた。もしかしなくても借り人競争でのことを怒っているのだろう。
「はあ……」
小さくため息をつきながら、凛香さんの機嫌を直すにはどうすれば良いのか考えながら踊り、また踊る相手が変わった……のだが。
「……って竜二か。お前何してるんだ?」
全然気にしていなかったけど、どうやら竜二は別グループの女子の輪で踊っていたらしい。順番が回ってきて優花と竜二が踊ることになったわけだ。
「うし! やっと兄貴の所に来れましたよ!」
「いや、こういうので男同士で踊るのってなんか悲しくないか?」
別に女子と踊りたいわけでもないけど、男子と踊るのはそれはそれでやっぱり何か悲しくなる気がする。
「そうっすか? 別におれは気にしないっすよ? 兄貴と踊れそうだったからこっち来たくらいっすから」
まあ竜二が参加して丁度別グループの男子の輪と女子の輪の数が合う感じなので、竜二が良いなら別に良いか。
「それより兄貴ため息っすか? 何かありました?」
「いや、凛香さんの機嫌が悪くなっててな……」
楓の時がそうだったようにそんなに話している時間はないため、優花が細かい説明を省いてそう竜二に言うと、竜二はすぐに思い当たる節があったのか納得したように頷いた。
「ああ、兄貴が楓とか別の女共と踊るのが嫌なんすね」
「……え?」
「っと、兄貴! それじゃあまた後で!」
予想もしてなかった竜二の発想に思考が止まる中、再び踊る相手が変わり竜二は行ってしまった。
いやいや、冷静に考えて凛香さんがそんなことを思うだろうか?
再び凛香さんの方を見てみると、さっきよりも更に凛香さんの視線が険しくなっているように見えた。
気のせい……ではないな。
さっきより機嫌が悪くなっていそうということは、竜二の指摘もあながち間違いではないのかもしれない。
いや、でも何で俺が女子と踊るのが嫌なんだ?
たしかに異性の手に触れるとはいえ、今回のダンスはあくまで皆で踊るフォークダンス。別に手が触れた相手を一々意識するわけでもない。
特に問題はないように思えたけれど、逆に凛香さんが他の男子と踊っている様子を想像してみると簡単に答えが出た。
あ、嫌かも……。
いざ想像してみれば、凛香さんの手が他の男子の手と触れ合うことを想像することすら嫌だった。
これが真央や楓だったらどうなんだろうと少し想像してみると特にダメージはなかったが、花恋で想像したらまた少し嫌な気がした。
どうしてだろうと考えてみれば、凛香さんと花恋の方が真央と楓よりも一緒に居た時間が長くより身近な存在。だからこそこんな気分になるんじゃないだろうかという結論に至った。
ええと……つまり、凛香さんも俺が他の女子と触れ合うのを嫌がるくらいには身近な存在だと思ってくれているってことか?
「よ、ようやく灰島先輩の所に戻ってこれましたよ……って何変な顔してるんですか? 気持ち悪いですよ?」
「……悪かったな気持ち悪くて」
相変わらず楓の憎まれ口も今は気にならない。
再び楓と踊りながらも考えるのは凛香さんのこと。根拠はないけれど、先程自分が出した結論が合っているような気がして嬉しくなり胸が温かくなるのだった。
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