乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その二百四十九
お題を引き直した竜二が再び自身のクラスの方に爆速で向かっていく中、優花が探すのは深雪。
調子が悪そうだったけど大丈夫かなと思いながら探すと、ちょうどゴールから離れた教員の待機スペースで奈央と脚を紐で結び終え走り始めた所だった。
「おっそいけど……息は合ってる?」
「ええ。それに対して獅道様達は息が合ってないせいで走れてませんね」
めいさんの指摘の通り、もう自分のクラスの所に戻った竜二が指名したのは淀……じゃなくて楓。
竜二と楓はお互いに譲らずぎゃーぎゃー言い合いながら走るせいで転びそうになってばかりで全然進まないのに対し、ゆっくりとではあるものの確実に進んでいる深雪先輩と奈央先生チームがリードを奪う。
「あ、結局楓を抱えて片足で跳び始めた……」
「無理やりですね。あれを二人三脚と呼んでよいのかという疑問はありますけれど、速度は上がりましたね……」
「こちら参加賞です。競技にご協力いただきありがとうございました」
苦笑しているめいさんに粗品が渡されたものの、ここまで来たら最後まで勝負を見届けることにする。
他のチームもゴールし始める中、最下位だけはなりたくないのか深雪のチームに抜かれた竜二が選択したのは楓を抱えて自由な片足で跳んで進む力技。
いくら楓が小柄だからとは言え、人一人抱えて片足で跳ぶのは、腕力と脚力、そしてバランス感覚が相当鍛えられてないと無理だろう。さすがは竜二だ。
『あーっと! ここで白組最後の一組が無理やり片足で跳び始めたー! 速い速い! 一気にゴールへと突き進む! 対する会長チームも後少し! 間に合うかー!』
実況が盛り上げ、会場が沸く中先にゴールしたのは――――深雪先輩チームだった。
「最後楓が暴れなければ竜二が勝ってましたかね?」
「まあ、女子としてはあの扱いは不満だったのでしょう。荷物でも運んでいる感じに小脇に抱えてましたからね……」
結局最後の最後、お互いに並んだ所で竜二チームが抜けだしそうになったものの、楓がこのままゴールするのは嫌だとごねて失速。その隙をついて深雪先輩チームがゴールしたのだが、これは借り人競争、勝負はまだ終わってはいない。
『さあ! 先にゴールをしたのは会長チーム! ですがここからまずは審査があります!』
実況の言う通り、そもそもお題に合った人物を連れてきたのか審査がある。これに合格して初めてゴールだ。
「はあはあ……はあ……これを……」
息を切らしようやく持っていたお題の紙を審査員に渡す。
「はい。それではお題を確認します。お題はええと……」
「はあ……はあ……おえっ……はあ……ふう……み、みーくんのことだから……憧れの人物とか……お姉ちゃんとかだろ……はあ……はあ……」
奈央先生はああ言っているが、普段の二人の関係性を考えれば小さい人とか、ダメな人とかそういう感じだろうと思っていると、
「ええと『大きいと思う人』ですか?」
大きい……?
小柄でちんまりとした奈央先生からは最もかけ離れたお題。これはさすがに予想できなかった。
「すみません会長これはさすがに……」
まあそれはそうだろうという感じで審査員が問答無用で不合格を出そうとしたところ、ようやく息を整えた深雪が口を開いた。
「ふう……いや、たしかに姉さんは身長は低いし、性格も悪いが」
「うぉい! 余計なこと言ってんじゃねえ! ほら! どこがでかいか言ってやれ!」
同じくようやく息が整った奈央先生が調子に乗り始める中、深雪は一度大きくため息を吐いた後で少しだけ笑みを浮かべた。
「……ついでにうるさいが、今回の体育祭の準備では大いに世話になった。無事に開催できたのも姉さんが居たからこそだと思っている」
「お、おお……」
素直な賛辞は慣れてないのか奈央先生が狼狽を見せる中、深雪はいつもの真面目な顔に戻りずれた眼鏡をくいっと持ち上げた。
「まだまだ敵わないなと思ったよ。これが自分の『大きいと思う人』だ」
「そ、そういうことですか。それならまあ、合格で」
『おーっと! 判定は合格! やっぱり最後に勝つのは地味でも堅実に進む方だったー!』
審査員が合格を出し、実況が盛り上げ優花達のグループの順位はこれで決定した。
ちなみに竜二の方のお題は『ツインテールの人』。楓はツインテールなのでこれは合格だったが、結局最下位は変わらない。
優花達のグループが終わり次のグループのレースがスタートする中、ようやく解散して良いことになった。




