乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その二百四十八
時間が少し戻った凛香さん視点から始まり、後で優花視点に戻ります。
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あの反応。間違いありませんわ! ゆうかさんが引いたのは『好きな人』。そして、今確実にわたくしの方を見ましたわ!
白熱した綱引きが終わり、現在の競技はゆうかさんが参加している借り人競争。
正直なところ綱引きが終わった後にゆうかさんに言われたお礼の言葉と触れた手の感触に意識がいっていてほとんど競技に集中はできていませんでしたが、先ほどのお題『好きな人』からの公開告白は見ていました。
告白が失敗し、がくりと膝から崩れ落ちる男子には拍手、そして男子の反応を見て合格の判定を出した審査員に笑いも飛ぶ中、その光景を見て脳裏に閃いてしまったことがありました。
……わたくしも告白されるのでは?
もちろんゆうかさんが引くお題次第ではあるけれど、そんな可能性はゼロではない。内心とてもドキドキしながらいよいよゆうかさんのグループがスタート。
ゆうかさんによくしてもらっている獅道さんが凄まじいスピードで走っていくのも気にせず、ただゆうかさんにだけ注目していると、最初の直線を走り終えたゆうかさんがお題を見て一瞬ひるんだような反応を見せた後、すぐに視線をわたくしの方に向け――――目が合った。
ほ、本当に来ましたわね!
真剣な表情でこちらの方に走ってくるゆうかさんに先程の閃きは間違っていなかったと改めて確信し、選ばれた人は二人三脚でゴールへと向かう必要があるためクラスの待機所を抜け出す。
「し、仕方ありませんわね……!」
ゆうかさんが別人のようになってしまった夏休み明けのあの騒動、そして最近露骨にゆうかさんに避けられていることを鑑みて、本当に好かれているのか不安に思う日々が続いていましたけれど、わたくしの杞憂だったみたいですわね!
安堵の気持ちと共にここ最近からついさっきまでずっと深く深く沈んでいた気持ちが浮上していく。頬に熱が集まるのを感じながら、待機席の最前列へと躍り出るとちょうどゆうかさんが走ってきた。
こ、このような場で告白されるとは思いませんでしたけれど……ええ。わたくしも覚悟を決めますわ!
もちろん答えはもう決まってます。心臓が高鳴り、これから告白されるという謎の緊張も最高潮。それでも嬉しい気持ちの高揚感が勝る。
さあ、わたくしの元に来なさい。ゆうかさ…………ん?
これからの展開を考えていたせいか、ゆうかさんの視線がもうこっちを見ていないことに…………ゆうかさんが目の前を走っていってからようやく気が付いた。
「え……? めい?」
わたくしを華麗にスルーしたゆうかさんが向かった先はめいの元。
「あら、私ですか?」
めい自身も自分が指名されるとは思っていなかったようで、困惑の声が聞こえてくる。
「…………」
冷静に考えれば、お題は別に『好きな人』とは限らないのだから、別に落ち込む必要はないのですけれど、それでも心の中で何で? どうして? と思ってしまうのが止められない。
「あ、あの。凛香さん? だ、大丈夫?」
「……ふ、ふん! 心配されなくて結構です! わたくしは大丈夫ですわ!」
わたくしの勘違いの一連の流れを見ていたらしい真央さんが心配そうに声をかけてくれましたが、今はその優しさを受け入れる余裕はない。
結局ゆうかさんのお題が何だったのか、もやもやした気分を抱えたまま。気がつけばゆうかさん達のグループの借り人競争は終わっていました。
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「あ……」
ゴールして冷静に考えてみれば、あの時凛香さんが前に来たのは自分が指名されると思ったからで、そんな凛香さんの前を素通りしたのは……非常にまずい。
すぐにでも謝りたいところだが、今回の競技は指名されて競技に参加してくれた人に粗品が渡されるため、このままめいさんを一人で置いていくわけにもいかず、今すぐ謝りに行くことはできそうにない。
運悪く粗品の準備も遅れているらしくゴール付近で足止めされることになってしまったため、結局すぐに席に戻ることはできず、めいさんと並んでまだゴールしていない優花達の組以外の競技を見ることになった。
「竜二はお題が『168センチぴったりの人』でクラスの男子を連れてきたみたいだけど、0.2センチオーバーで引き直しか……厳しいですね」
「自身の身長を常に完璧に把握するのは毎日測ってる人じゃないと無理ですね。まだ身長が伸びてる子も居るでしょうし」
「ですね。ええと、あと深雪先輩は……」
今回視点変更だけじゃなくて時間も戻してみましたが、やっぱり読みづらくなりますかね……。




