乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その二百四十七
スタート位置についた優花達は、アナウンスの合図と共に鳴らされたスターターピストルの音と共に走り出す。自分でも中々上手くいったと思うスタートダッシュだったけれど、優花の横を竜二が華麗に抜けていく。
「兄貴! 先行きますね!」
さすがは竜二と言うべきか、やっぱり足は竜二が圧倒的に速い……と言うか早すぎて同じ人類なのが疑わしくなるレベル。
すぐにトップに立った竜二が最初の直線を一番手で走り終えてお題の紙を手に取った。
「うげっ……」
嫌な声を出しているところを見ると竜二はきついお題に当たったらしい。これはチャンスかもしれない。
「じゃあ……これ!」
続いて優花が直線を終えてお題の紙を取り、中を確認。書かれたお題を見た瞬間、優花の頭に浮かんだ人物をすぐに探す。
「ええっと……」
ぐるりとグラウンドを見回す途中、凛香さんと目が合った。
「よし、居た!」
ターゲットを発見し走り出す優花に、凛香さんがぱたぱたと何故か少し顔を赤くしながら前にやってきた。
「し、仕方ありませんわね……!」
凛香さんが何か言っているのが聞こえたけれど、とりあえず今はスルーして……。
「めいさん! お願いします!」
凛香さんの前を文字通りスルーして、その先に居た凛香さんのメイドのめいさんに二人三脚の許可を取る。
「あら、私ですか?」
「はい。お願いできますか?」
めいさんも意外だったのか、ちょっと驚いていたけれどすぐににこりと笑った。
「ええ、それはもちろん構いません」
「ありがとうございます。失礼します!」
さっそくめいさんと足を合わせて紐で結びお互いの腰に手をあてて二人三脚状態で走り出す。
めいさんの細い腰に手を回すのとめいさんの腕が腰に回されたので少しドキッとしたけれど、今はレースに集中する。
竜二や他の参加者が今どうなっているのか確認している余裕はないけれど、めいさんの位置はややゴールから遠い位置だったので走りで挽回する必要がある。
『おおっと! Dグループ赤組の一人が連れてきているのは、な、なんとメイドさんだー!』
目ざとく優花がめいさんと二人三脚で走り出したのを見つけた実況が、場を盛り上げる。
ちなみになんで実況がめいさんをメイドだとわかったのかというと、そもそもめいさんの格好が今日もメイド服だからだ。まあ、めいさん意外にもメイド服や執事服を着ている人物はちらほら居るのでそれほど浮いてはいない。
「何か盛り上がってますね……」
「ゆうか君。集中してください。勝負の真っ最中ですよ」
「あっ、はい。すいません……」
やっぱり勝負事に関してはガチらしいめいさんに注意され、今度こそしっかりと集中して走る。
『すごい! すごいスピードだ! 二人の息の合い方は完璧だー!』
完璧……は言い過ぎだけれど、とても走りやすい。どれくらい走りやすいかというと、二人三脚状態の走りづらさをあまり感じないぐらいだ。
たぶんめいさんが優花の全力に合わせて走ってくれているのだろう。どれだけ頼りになるんだろうこの人は……。
借り人競争の今までの参加者がなんだったのかというぐらいの圧倒的な二人のスピードは、他の追随を許さず一位で審判の元へ到着。優花はすぐに審判の女子にお題の紙を差し出した。
「それではお題に確認をします。お題は……『一番大人だなと思う異性』ですね」
「はい。めいさんは虚空院家でメイドをしてて、掃除も料理も完璧で、運動も勉強もすごいですし、一番頼りになる人なので、一番大人だと思って指名させてもらいました」
「褒めすぎですよゆうか君。私だって気を抜く時もありますよ?」
審判の説得のため、普段はあまり直接言う機会は無い心の内をさらけ出す優花に、めいさんは嬉しそうにそして少し困ったように微笑む。
「何でいちゃいちゃを見せられてるんだわたしは……はいはい! 合格合格! さっさと行ってください!」
審判の女子が何故かすこしやけになった感じで合格を出し、無事に優花は一位でゴール。これで少なくとも点差は広がらずに済むはずなので安堵しても良い……はず。
それなのに、何故か優花の胸によぎったのは何かやらかした時のような漠然とした不安感だった。
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