乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その二十四
金髪ツインテールの一年生楓と初めて会った日の翌日。
昼休みに、どこか適当なところで昼ご飯でも食べようと、コンビニの袋を下げたまま学院の敷地を歩いていると、見知った顔に出会った。
「ああ、黒岩さん。この間は占ってくれてありがとうな」
「いえ……お力になれなくて……すみません……」
竜二が紹介してくれて、偽の白桜伝説を広めている犯人捜しを手伝ってくれた黒岩淀だ。
淀は相変わらず口元以外が前髪に覆われていて、表情が読みづらかったが、若干うつむいていてなんとなく落ち込んでいるような印象を受けた。淀が座るベンチに少し間を空けて横に座る。
「なんか元気ないみたいだけど?」
「わかりますか……はあ……」
淀は本当に落ち込んでいたらしい。
ため息をつくと、淀は自分の制服のポケットからタロットカードを取り出した。
「あの日以来……スランプ……なんです……何を占っても……成功しなくて……」
「占いにもスランプってあるんだ……」
優花にはよくわからない世界だが、そういうこともあるのだろう。
あの日というのは、もしかしなくても優花が占ってもらった日のことだろう。つまり、今淀が落ち込んでいるのは優花のせいである可能性が高いと気が付いた。
「占いができないあたしなんて……生きている価値が……ないんです……」
淀の半端ない落ち込みっぷりにビビる。
自殺でもしてしまいそうな程の淀の暗いオーラに、優花は必死で何か策はないかと思考を回転させる。
「ええと……スランプの一般的な打破方法は、気分転換だと思うんだよね」
うん……普通な発想しか出てこないわ。
我ながら、もう少し良いアドバイスはないのかと、自分自身に失望しそうになっていると、淀はゆっくりと顔を上げた。
「気分転換……ですか?」
お? なんだか意外と乗り気?
淀の反応が予想外に良かったことに気が付いた優花は具体的に気分転換の案を出してあげることにした。
「そうだなあ……ゆっくりお風呂に入るとか、運動してみるとか」
「いつも……一時間くらい……お風呂は入ってます……運動は……あんまり」
んー、まあ運動をあんまりしない人の方が、体を動かすと気分転換になるんだけど……まあいいか。
「それじゃあ、買い物とか誰かと遊びに行くとかかな。どこか行きたい場所とかないの?」
「行きたい場所……ディスミーパーク?」
聞いたことのない場所だが、この世界の遊園地だろうか。
「せんぱい……今週末……気分転換に……ディスミーパークに……行ってきます」
ぐっと両こぶしを握ってそう宣言した淀に、嫌な予感がした優花はぽりぽりと頬を掻いた。
「ええと……もしかして一人で?」
「はい……一緒に……行ってくれそうな……人もいないので」
やっぱりか……。そんな悲しいことを堂々と言わないで欲しい。
「竜二とかはだめなのか? 仲良さそうだったけど」
「りゅうは……最近一緒に……遊んでくれなくて……昔は……よく遊びましたけど……」
……なるほど。淀としては竜二と一緒に遊びたいけど、竜二は淀と遊ぶのが恥ずかしいのか避けているって感じだろうか。
それならと先輩として一肌脱いでやることにした。
「じゃあ俺から竜二に言ってあげるよ。そうすればあいつも断らないだろ?」
「……りゅうと……二人で行くのは……恥ずかしいというか」
前髪で隠れているせいでわからないが、淀が照れているらしいことはわかった。
二人でだめなら、優花も行けばいい。男二人に女一人が嫌なら、真央でも凛香でも、花恋でも誘って女子率を増やすのもありだろう。
「あー……じゃあ俺も行こうかな。ついでに何人か連れてくるかもしれないけど、大丈夫?」
「……いいんですか? ……その……お願いします」
ぺこりと頭を下げる淀と連絡先を交換し、別れる。
落ち込んでいたはずの淀の足取りが少し軽くみえるのは気のせいではないだろう。
昼飯を食べ終わると早速竜二に電話した。
「竜二か? 今週末なんだけど、ディスミーパーク? っていうのに行かないか?」
「え! うっす! 行くっす!」
すごい食いつきだった。やっぱり、この世界では有名な所なんだろうか?
「それで、メンバーなんだけど適当に何人か連れていくから、当日駅集合な。細かい部分まで決まったらまた連絡するわ」
「うっす! わかったっす!」
あっさりと竜二の参加を取り付けられてほっとする。あとはもう少しメンバーを増やすだけだ。
教室に戻ると真央と凛香は既に自分の席に座っていた。
ちょうど良いので、二人共誘うことにする。二人に断られたら花恋とでも行けばいいだろう。
「えっと、二人共少しいいかな?」
「はい? なんですの?」
「ゆうかくん? どうしたの?」
二人に週末出掛けないかと言ったところ、意外にも凛香はすぐに快諾してくれた。
「ええ! よろしいですわ! この虚空院凛香を誘ったのだから、しっかりエスコートしてくださらないと困りますわよ?」
「あー……頑張ります」
なんだかハードルが上がってしまった。
凛香を誘ったのは失敗だったかもしれないなと、少し後悔していると、真央が、ぱんと両手を合わせて頭を下げてきた。
「あの……ごめんね? その日は先約があって行けないんだ」
「え? そうなのか。悪かったな、いきなり誘って」
「ううん。誘ってくれたのは嬉しかったよ。今度は一緒に行こうね?」
まあ真央はこの世界の主人公なので、休日は基本的に予定があるのは仕方がない。
真央が行かないとわかって、ぴくりと凛香の眉がほんの少しだけ動いた瞬間、凛香の機嫌が悪くなったのがわかった。一ヵ月近くになる凛香の執事としての経験の賜物だろう。
「あー……こほん。この灰島ゆうか、今週末にお嬢様を必ず楽しませると約束しましょう」
なんとか凛香の機嫌を取ろうと、執事生活で染みついた右手を後ろに回し、左手を腹部に当てる正式な礼をしながらそう言ってみると、凛香は目をぱちくりとさせて驚いた後、うっすらと頬を朱に染めて首肯した。
「え、ええ。楽しみにしておきますわ」
どうやら凛香の機嫌は直ったらしい。
良かった良かったと思っていると、クラス中の視線が集まっているのがわかった。
「あー……それじゃあ凛香さん。週末の予定空けておいてくださいね!」
とりあえずこれで四人。
男二人、女二人なので淀も気兼ねなく楽しめるのではないだろうか。
偽の白桜伝説を広めている犯人捜しは……また今度だ。
花恋にディスミーパークに行く話をしたところ、花恋も付いて来ることになり、最終的なメンバーは五人。優花と竜二に、淀と凛香、そして花恋だ。
一応形の上では今回のイベントの立案者なので、皆より早く集合場所に着こうと、花恋より先に家を出て、一時間近く早く集合場所に到着すると、既に一人集合場所に立っていた。
「……凛香さん。おはようございます」
「あら? ごきげんよう。なかなか早かったですわね!」
今日の凛香はベージュのワンピース姿。とても機嫌が良いみたいで、にっこりと笑うその笑顔がまぶしい。
「ええと……凛香さん早すぎませんか? まだ集合時間の一時間前ですよ?」
どれだけ楽しみにしてくれてたんですか……。




