乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その二百四十三
皆に指示を出したいけれど出せずにいる間にどんどん立ち位置が埋まり最後尾になった優花……の更に後ろに凛香さん。
「ねえ、ゆうかくん。綱の持ち方ってこうでいいのかな? 反対側に立った方がいいかな?」
「ええと、右利きならロープの左、左利きだとロープの右に立って持った方が……」
たぶん皆に遠慮した結果、優花同様ここしか空いてなかったんだろうけれど、優花の前は真央。
「こうか同士!」
「いや、それじゃ力入れづらいだろ! 右手と左手が逆だ逆!」
そして真央の前には何故か翡翠。女子人気の高い翡翠は、大体の女子達から近くに来てほしいと取り合いになっていたものの、何とかそこから抜け出して真央の前を確保したらしい。
「……ゆうかさん。わたくしの方も確認してくださる?」
「あっ、はい。ええと、その持ち方で大丈夫です!」
「ゆうかくん。これでいいんだよね?」
「同士! 俺様も確認してくれ!」
どうしてみんな確認してもらいたがってるんだろう……。
凛香さんと真央、それと翡翠の立ち位置と持ち方の確認を終えるともう試合が始まる時間になっていた。
優花達のクラスの対戦相手である相手クラスは見た感じ運動部で体の大きい男子が多そうで、合計体重ではたぶん負けている。ただ、今回の特殊ルールのおかげで相手クラスは男子が前と後ろに配置され、真ん中が女子という立ち位置でバランスが悪い。
優花達のクラスは全体の指揮が無かったせいで、全体のバランスこそ取れなかったものの男女交互の立ち位置自体は悪くない。
これがどう勝負に影響するか……。
『それでは、綱引き二年生の部スタート!』
開始の合図と共に足を踏ん張り、体を後ろに倒して体重をかけ綱を体で引っ張るイメージで力強く引っ張る。
「ぐっ……」
最初の力比べはほぼ互角……いや、若干中央部分が相手側に寄ったけどまだ負けてない。
ここからが本当の勝負。勝つために必要なのは何だという疑問が浮かんだ瞬間、優花の脳裏に浮かんだのは先ほど凛香さん達が妙に確認をしてもらいたがった光景と綱引きが始まった瞬間から生じた気持ちの悪い違和感。
「翡翠! 掛け声!」
「え、か、掛け声?」
案の定綱引きの時の掛け声がわからなかった翡翠に優花は自分の考えが間違ってなかったという確信を得た。
白桜学院が特別なのかどうかはわからないけれど、凛香さん達は綱引きの経験がほとんどない。そしてそれは当然相手クラスもそうであるはず。
「オーエスとか、一、二とか何でもいいから早く!」
ずっと力を込め続けるのは難しい。少しでもほころびが生まれればそこから勝負は決してしまうだろう。
「お、おう! 任せとけ! 皆行くぞ! オーエス! オーエス!」
優花が翡翠を声をかける役に選んだのは、翡翠の声は良く通る上にでかいから……だけじゃない。
「皆! 翡翠様の声に合わせるのよ! オーエス!」
「ああ、私頑張ります! 王子! オーエス!」
さすがの女子人気。翡翠の声に合わせて女子達が力を振り絞る。
「くそっ、奥真にばっかり良い格好させるかよ! オーーエス!」
「オーエス! オーエス!」
普段はイケメンの翡翠に対して良く思っていない男子達も今だけは声と力を合わせていく。
掛け声に合わせて引っ張られていく綱の中央部分が徐々に優花達のクラスの方へと寄っていく中、相手クラスも必死。
『俺達も声を合わせるんだ! オーエス! オーエス!』
当然優花達のクラスがやったことは相手のクラスもできること。
「ぱ、パクられたぞ同士!」
「いいからそのまま掛け声!」
「わ、わかった! オーエス! オーエス!」
再び力が拮抗し動かなくなった中央部分。だが、優花には続く策があった。
「真央! 真央は翡翠の応援!」
「う、うん! 頑張ろう翡翠くん!」
凛香さんのことが好きだと自覚した時から力が溢れているのと同じ。翡翠だって真央に応援してもらえば力がみなぎるはず。
「お、おお! 任せろ真央! オーーーエス! オーーーエス!」




