乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その二百三十八
「……わかった。それで? 今度は俺に何して欲しいんだ?」
楓のおかげで深雪が助けに来てくれたのだから、実質さっきは楓に助けられたようなものでもある。
また面倒なことになりそうな気配はびんびんにあるものの、覚悟を決めて優花が了承すると楓は少し口元に手を当てて考えてから口を開いた。
「じゃあ……楓と」
「楓と?」
別に何でも言うことを聞くと言ったわけでもない。あまりにひどかったら断ろうと思いつつ楓の続きの言葉を待つと、楓は優花から視線を外しながらぼそっと小声で、
「お昼一緒に食べてください」
とだけ言った。
白桜学院の体育祭は、お昼ご飯を家族と一緒に食べても良いことになっている。家族が来ていない人は友達と一緒に食べても良いのだが、わざわざ優花を誘うということは……。
「楓、お前……やっぱりボッチじゃ」
「か、勘違いしないでくださいね! 一緒に食べる友達が居ないわけじゃないですからね! ただ、皆今日は家族が来てるみたいなので、邪魔……できないじゃないですか……」
「ああ……。それはまあ……正直わかるな」
どれだけ仲が良い友達でも、その家族とも仲が良いかは別の話。そもそも一家団欒の時間に他人が入っていくのはかなり心理的なハードルが高い。
優花としては別に一人で食事を取るのはそれはそれで気が楽なので苦にならないけれど、楓は違うのだろう。
「まあ、俺も今日は家族が来てないから別にいいぞ」
今は午前の部最後の競技である障害物競争をしている最中。これが終わればそのままお昼休憩なので、どこか良い場所を見つけに行くのが良いだろう。
ちなみに今回の障害物競争の特殊ルールは、早押しクイズに答えたり数学の問題を解いたり頭を使う障害の追加。優花の知り合いは誰も参加していないみたいで、地味にきつい障害に参加者は苦戦しているのが見えた。
「それじゃあお昼ご飯だけ持ってまたここに戻ってきてくれ」
障害物競争ももうすぐ終わる、お昼を持って集合すればちょうどお昼ご飯の時間にはなるだろう。
「……そんなこと言って、楓を撒こうとしてるんじゃないですよね?」
「信用ないな。そんなことしたら後が怖いから、絶対やらないから安心しろ」
「ふーん……まあ、いいですけど」
ぷいっとそっぽを向いて金髪のツインテールを揺らしながらお弁当を取りに行く楓を見送り、優花も自分のお弁当を取りに教室に戻ると、ちょうど翡翠が居た。
「あ、同士! さっきの真央の格好見たか? いやあ、真央は何を着ても似合うとは思ってたけど、コスプレも似合うとはな!」
「そう言えば不思議の国のアリスの格好してたっけ? たしかに似合ってたな」
「ああ! さすが真央だ! …………ところで、同士?」
「ん? どうしたんだ翡翠?」
「同士はどんな格好をしたんだ? 同士には悪いとは思ったんだが、急いで着替えに行こうとしたらレディ達に囲まれてしまって結局同士がどんなコスプレしたのか少しも見てないんだ」
「…………」
別に女装したと言うのは簡単だけれど、その時、翡翠と女装姿で出掛けた記憶が優花の頭に一瞬だけ蘇りすぐ消えた。
同時に女装姿がばれると絶対に面倒なことになるという確信めいた思いが芽生えた優花は、全力で話を逸らすことに決めた。
「俺のコスプレ何てどうでもいいだろ。それよりもこの後お昼ご飯だけど、四五郎さんとかは来てるのか?」
翡翠の父でイケメン俳優の四五郎さんは有名人なので、こういった行事には来づらそうな気もするけれど、本人の気質的にこういったイベント事は好きそうではある。
「ああ、親父は来てるぞ。母さんは来てないけど」
特に疑問も無く優花の誘導に乗ってくれる翡翠は扱いやすくて助かる。
「ふーん。真潮さんは来てないのか」
四五郎さんが来るのなら、四五郎さんのファンが行き過ぎている真潮さんも来そうなものだけど、もしかして体育祭とか嫌いなタイプだったのかもしれない。
翡翠には悪いけれど、真潮さんのことは苦手なので来てないと聞いて優花は少しほっとしてしまった。




