乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その二百二十二
かぶりものを手で抑えながらも頑張って走る女子達に観客の声援が飛び盛り上がっている。翡翠が言っていたように、ただ見ている側としてはかぶりもの一つしているだけで何だか面白く感じるのが不思議だ。
……そして割とどうでも良いことだけど、一人一人バラバラなかぶりものがちゃんと用意されていることに白桜学院の潤沢な財力を感じる。前の世界の高校だったら絶対ありえなかっただろう。……いや、そもそもこんな競技自体ないか。
「お、次真央と虚空院が走るみたいだぞ!」
「おっと、大事なところを見逃すところだった!」
マジハイのミニゲームのことを思えば、凛香さんと真央の直接対決の結果はどっちが勝っても大きな影響は無いはず。なので今はかぶりものをしている羞恥を見せながら全力で走る凛香さんを見ることに集中できる。
欲を言えばスマホで録画……いや、最新鋭のビデオカメラでより高画質で保存しておきたいところだけどさすがに準備が無いので、できるのは目に焼き付けておくぐらい。
ただ、白桜学院の体育祭は家族だけでなく関係者も入ることができる。つまり……虚空院家の優秀過ぎるメイドのめいさんなら、絶対に凛香さんの活躍を撮影してくれているはずだ。
後で見せてもらおう。……絶対に。
「始まった!」
さて、体育祭始まって早々の凛香さんと真央の直接対決。体育の授業で知っている通り、走力にはほとんど差が無い二人なので差がつくとしたらやっぱりかぶりものの違いだろう。
スタートの合図と共に、開幕先頭に飛び出したのはやっぱり凛香さんと真央。あっという間に他の選手たちを引き離し勝負は一気に二人の対決になった。
陸上部もかくやという足の速さを見せる二人だが、一人だけ豪華すぎるかぶりもののせいでぐわんぐわん頭が揺れている凛香さんに対し、真央はほとんど猫耳ぐらいしかない猫のかぶりもののおかげで手でおさえる必要も無い。
目に見えて凛香さんが不利な勝負だったものの、凛香さんも意地で食らいつき二人のレースは最後まで目が離せない大接戦。
結果は――――僅差で真央の勝利だった。
ゴールテープを超え、2位の旗をもらい悔しそうな表情を見せる凛香さんを見て胸が苦しくなる。
どっちが勝っても良いなんて思うのは間違いだった。次からはちゃんと真面目に凛香さんを応援することに決めた。
「デッドヒートだったな。虚空院も中々だったけど、さすが真央だ」
悔しそうにする凛香さんのことを思っていたせいで真央が勝ったことを何故か勝ち誇る翡翠に余計にイラッときたので、さっさと話をさっきの勝負からそらす。
「……ちなみにデッドヒートって元々の英語だと同着って意味らしいな」
「へー、そうなのか?」
「もう一個ちなみに、ゴールインも和製英語で海外の人には通じないらしいぞ」
「あー……それは何か聞いたことあるぜ」
狙い通り話が凛香さん達の勝負から和製英語に変わってすぐに『次の競技に参加する選手は集合してください』とアナウンスがかかった。
「おっと、そろそろ俺様達も行かないとな」
女子の短距離走の次は男子の短距離走。
個人競技はなるべく避けたかったのだが、考えることは皆一緒なのか誰もやりたがらなかったせいで、翡翠と共に短距離走の選手にされたことを思い出し少しげんなりした。
競技を終えた凛香さん達が戻ってくる前に、翡翠に背を押され集合場所へと向かう。
「おい、何だこれ」
「さすがの俺様もこれは予想できなかったな」
向かった集合場所は何故か更衣室。そこに用意されていたのは…………。




