乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その二百二十一
結局無難な返事になってしまったけれど、竜二はそれで満足したらしい。
「うっす。それじゃあ失礼します兄貴!」
「……あいつやる気満々だな」
びしっと礼をしてから去っていく竜二に翡翠が若干引いている中、翡翠の反対側から真央が顔をのぞかせた。
「二人共! 今日は頑張ろうね!」
ぐっと小さい拳を二つ作る真央。体育祭に意欲的なのは竜二だけかと思ったら、真央も十分やる気に満ちあふれていた。今日髪型を変えてきているのはやる気の表れだったらしい。
「お、おう! 赤組の優勝は俺様に任せておけ!」
「うん! 頑張って翡翠くん!」
びしっと親指を立てて格好つける翡翠に真央も親指を立てて返しているところを見ると、今日の真央のテンションはたぶんいまだかつてないレベル。体育祭が特別好きなのか、それとも何か別の理由があるんだろうか?
真央に応援されて余計に張り切る翡翠と謎にハイテンションな真央に思わず苦笑がこぼれた。
「ほら、ゆうかくんも頑張ろうね!」
真央にがしっと手をつかまれぶんぶんと上下に揺さぶられる。
「お、おー……」
「よし! それじゃあ頑張ってくるね!」
されるがままにしていると満足したのか真央は優花の手を離し、小さく手を振ってどこかに行ってしまった。
「なんか真央のテンション高かったけど、何だったんだ?」
「ん? そうか? 真央はいつもあんな感じだろ?」
「いや、いつもはあんな感じじゃないと思うけど……」
優花から見た真央はなんだかんだいつも困ったように笑っていてどちらかと言うと落ち着いているイメージだけれど、翡翠から見ると真央は普段からあれぐらいテンションが高いイメージなんだろうか?
……まあいいか。
真央のテンションが高い理由は気になるところだけれど、放っておいても特に問題はないだろう。
翡翠の背を叩き優花達のクラスの指定された席に座る。クラスの男子は大体そろっているものの、女子は半数ほどで、どこかに行った真央は当然として凛香さんも居ない。
そう言えばまだちゃんと確認してなかったなと、椅子の上に置かれていた今日のプログラムが描かれた紙を見ると一番最初の競技は女子の短距離走だった。真央と凛香さんが居ないのは二人共選手だったかららしい。
「ほら、同士! 応援するぞ応援!」
「はいはい……」
真央の応援のために張り切る翡翠にため息を吐きつつ短距離走のスタートラインの方を見ると……。
「なんだあれ……」
短距離走に参加する女子達が、次々に牛や馬、蟹に兎、猫に恐竜等、多種多様なかぶりものをしていく異様な光景。
「ああ、あれか。今年は見ている人も楽しめるように色々工夫してるって聞いたぜ。真央は……猫か。さすが真央だ、すごく似合ってるな」
「へー……」
確かにまあ知らない子が走っているのをただ見ていても楽しくはないか。それにかぶりものと言っても顔はちゃんと出ているので走るのには支障は無さそうだ。
ちなみに凛香さんは……朱雀かフェニックス。何故か一人だけ超目立つ翼を広げた赤い鳥のかぶりものをして顔を真っ赤にしているのがここからでも見えた。……恥ずかしがる凛香さんがまたかわいい。
「あ、こっち見た」
優花の視線に気が付いた……わけではないだろうけど、この距離でもちゃんと目が合った凛香さんが更に顔を赤くしてばっと顔を伏せるのを見て、優花は思わず天を仰いだ。
「……体育祭最高」
「いや、まだ競技始まってすらいないぞ同士……」




