乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その二百十五
どうやら淀はあんまり見た目に頓着しないタイプの女子だったらしい。長すぎる髪もただ伸びるままにしておいたって感じか。
本人にその気は無かったらしいけれど、イメチェンとして見ると今までの色々な意味で暗く重そうな雰囲気がショートになったことで綺麗さっぱりなくなって、とても良い感じに見える。
「今年こそ……ビリは取らないように……頑張らないと……」
竜二のやる気の無さと反対に、淀からは並々ならぬ熱意を感じるのは気のせいじゃないだろう。むんっ! と張り切る淀が微笑ましい。
今の発言から察するに、淀は足が遅くてよくビリになっているのだろう。ビリの人に向けられる皆からの温かい拍手を何度も受けてきたんじゃないだろうか。
あれは恥ずかしいらしいからなあ……。
幸い優花は脚は比較的早いほうなのでされたことはないけれど、まあやられたくはない。
「まあ、うん。頑張って……って竜二? どうしたんだ?」
「な、何がっすか?」
何だろう? 淀が合流してから竜二の様子がおかしい。淀を視界に入れないように顔を背け続けているし、よく見ると頬もうっすらと赤い。
……もしかして。
「黒岩さん。ちょっとそこ立ってて」
「? ……わかりました」
ピンと来た優花は淀をその場に立たせ、自分は竜二の背後に回った。
「よっ! と」
「ちょっ、兄貴!」
竜二の顔を両手で挟んで無理やり淀の方を向かせると竜二と淀の目が合った。
「……?」
「っ!」
状況がよくわかっていない淀は小首を傾げ、竜二はその動きをぴたりと止めた。みるみる内に竜二の頬が熱くなっていくのがわかる。
この反応はやっぱりそうか……。
淀のショートカットが、竜二の好みのストライクゾーンど真ん中……って感じだろうか。
竜二と淀は幼馴染で今までだって一緒に居る時間はそれなりに長かっただろうに、今更髪型を変えたぐらいで異性だと意識してしまうものらしい。
今までは淀が竜二のことが好きなのはわかっていたけれど、これで晴れて両想い。二人の心配はしなくても良さそうだ。
「りゅう? ……せんぱい……?」
自分に対する好意には鈍いのか何なのか、淀は竜二が自分を意識していることに気が付いていないみたいでその表情はただただ困惑しているだけ。
「な、何でもねえから、お前は先行け、先!」
「? でも……もうすぐ学校だけど……」
「いいから行け!」
「……変なの」
顔の赤さは怒っているからだとでも誤魔化すつもりなのか怒った素振りで竜二が淀を追い払い、淀は首をひねりながらも言われた通り先に行ってしまった。
「あーあ。かわいそうに……」
淀が見えなくなり竜二の顔から優花が手を離すと、早速竜二がつっかかってきた。
「かわいそうにじゃないっすよ! 何するんすか!」
最初はともかく、一度向かせた後はろくに抵抗もしてなかったのは自分でも自覚があるのか、思ったより竜二の表情は怒ってなさそうに見える。
「少し確かめたいことがあってな」
「……確かめたいことってなんすか?」
……んー……これは言っても良いのか?
竜二が淀のことを意識していたのは確実だし、これで両想いなのも確かだけれど、それを第三者が指摘しても大丈夫なんだろうか? 意地になって否定して、結果的にすれ違ってしまうみたいな流れは二人の幸せのためにも避けたいところ。
……でもまあ、竜二なら大丈夫だろう。
「いや、好きなのかなって」
「ごほっ! ごほっ、げほっ!」
「お、おい。大丈夫か?」
予想外だったのか、許容量オーバーだったのかいきなりむせた竜二の背中をさする。
「だ、大丈夫っす。それよりも兄貴、今なんて言いました?」
「ん? いや、だから竜二が淀のことを好きなのかなって」
読んでいただき本当にありがとうございます。今年最後の更新です。
長編小説に挑戦してみようと思い書き始めた作品ですが、二年以上たってもまだ終わりが見えなくて怖くなります。
最後には話をしっかりまとめたうえで、読んでいて面白い作品になるよう心掛けつつ更新していく予定ですので、これからも読んでいただけると嬉しいです。
それでは、皆さま良いお年を!




