乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その二百十二
嘘だとばれてしまえば花恋がそうだったように、優花本人の話だと気が付かれていらぬ誤解を生みかねない。
……だったら例え話として切り出せば良いんじゃないか?
「例えば……そう、例えばの話なんだけどな?」
「は、はい……例えばっすか」
いや、だめか……。わざわざ二人に集まってもらって相談するのが変な例え話って何だよ……。
一瞬名案に思えたけれど、控えめに言っても意味がわからなすぎる。
「…………」
「あ、兄貴? どうしたんすか?」
「いや、何でもない。例えばなんだけどな?」
でも、もう仕方がない。一度口から出た言葉を引っ込めることはできない。
「はあ」
要領を得ない顔で相づちを打つ竜二に、とりあえず例え話として今の状況をざっくりと説明し意見を求める。
「なるほど、自分が好きな漫画とかのキャラクターが実際に目の前に生きている人間として現れたとして、それに恋するのは変かどうか……っすか」
ちょっと説明しすぎたかな……。
この世界がゲームだとバレてもとりあえず問題ないのは、マジハイの攻略キャラクターで担任の教師でもある昴先生で確認済みとは言え、世界の意思とでもいうべきこの世界のルールに抵触するとも限らない。
この世界の真実を知っている人間はあまり増やすべきじゃない。それはこれ以上攻略が進まないと一応の確認が取れている竜二と翡翠だって例外じゃない。
いくら今の状況が複雑で説明しづらいからと言って、少し話しすぎただろうか?
「そうっすねえ……別にそれ自体は変じゃないと思うっす」
「……それ自体はって言うと?」
竜二がこの世界の真実に気が付いた様子はない。一先ず安心し、竜二の意見に耳を傾ける。
「漫画のキャラが現実にってのはリアリティが無いんで変っすけど、恋したって部分は要するにすげえコスプレイヤーに恋するみたいな感じっすよね? それならまあ普通にあるんじゃないっすか?」
「なるほど、コスプレイヤーか……」
確かにアニメなんかのキャラのコスプレをする人の中にはすごいクオリティの人が居る。二次元のキャラが現実に……なんて設定にするよりは現実的になるしわかりやすいか。
……いや、それはともかく、これで竜二も花恋と同じで恋するのは変じゃない派。あとは翡翠も同じような意見だったら、とりあえず優花が胸に抱いたこの気持ちは普通だと言えるだろう。
「ふう、少しすっきりしたぜ。悪いな同士達」
トイレから帰ってきて食べ過ぎの苦しさから解放された翡翠に、今度はコスプレイヤーに恋した話として意見を聞いてみることにした。
「すごいクオリティのコスプレをしたコスプレイヤーに恋するのは変かどうかか……」
「あれ? 兄貴、おれの時とは少し違うっすけど?」
「いや、その方がわかりやすいかなと思ってな。それで翡翠。どう思う? やっぱり変かな?」
漫画のキャラが目の前にとか、二次元のキャラクターに恋するなんて設定よりは話もシンプルで意見も出しやすいだろう。




